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人理を守れ、エミヤさん!
全滅の詩、語れ薔薇の皇帝
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を刺されている痛みを十倍に拡大しているようなものだ。
 一度で洗い流せたのは、呪いの十分の一。一旦、中断して声をかけた。

「……あと九回、今のに耐えてくれ。そうしたら、少しは寿命が延びる」
「ふ、ふふふ……痛い、痛いな……。が、よい。この痛みが、生の証ならば。……だが、分かっているだろう。余のそれは、余がローマだからこそ蝕むもの。神祖の槍に触れたのだ、逃れても一時の誤魔化しにしかならぬ」
「それでも、やらないよりはましだろうが!」

 今度は、ネロは叫ばなかった。歯を噛み締め、全身から脂汗を垂れ流し、死に物狂いに耐えていた。
 ――こんな様で、よく今まで生きてたな!
 俺は内心で怒鳴る。ネロの体は、体内の三割が樹木と化していたのだ。普通なら死んでいる。だが、生き永らえていたのは生への執念か、それとも古代の人間に特有の神秘的な生命力故か。
 九回、全てにネロは声ひとつあげなかった。
 見事、と称える。息も絶え絶えにネロは口許だけで微笑んだ。

「どう、やら……本当に、余を……助けてくれて、いるのだな……」
「……」
「もう、ローマは呑まれ、余も槍の一部となるところだったが……。まさか、はは、まだ立ち上がるだけの……力を手にできるとは……感謝、するぞ……エミュア・シェロ」
「……士郎だ。が、まあシェロと呼ぶのはいい」

 それと、と。一瞬、懐かしい何かを思い出しかけた士郎だったが、すぐに気を取り直して言った。

「所詮は一時しのぎだ。呪いそのものは貴女の体と、魂そのものにまで絡み付いている。俺にはそれを遅らせ、ある程度押し留めるのが限界だよ」
「充分……だ。……すまぬが、少し眠ってよいか? ローマから、こんな辺境まで、休む間もなく逃げてきたのだ。流石の余も、少し疲れた……」
「ご随意に、皇帝陛下」
「ふ、……其の方ほど、敬語の似合わぬ男もおるまいな」

 そう溢したきり、ネロはぐったりと泥のように眠りについた。布団と敷布団を投影し、ネロをそこに寝かせる。
 俺は嘆息し、マシュを見た。マシュは首を左右に振る。まだカルデアとは繋がらないらしい。ここは、霊脈に設置した召喚サークルなのに。

 まだ続けろ、と目だけで指示し、俺はアルトリアとオルタに言った。それは、ネロのうわ言を聞く内に得た確信だった。

「最悪だ、二人とも」
「何がでしょう」
「この時代が修正不能になるのに、もう瀬戸際まで来ている。――ローマは実質滅び、全ての国土は大樹に呑まれ、まだ拡大は続くだろう。人理が完全に修復不可能に未だなっていないのは……」
「ネロ帝が生きているから、ですか」

 オルタの言葉に、うなずく。

「この時代の中心人物で、唯一、一世紀の原形として残っている皇帝ネロ。彼……いや、彼女が死ねば、歴史の修正は不可
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