第二章
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「イェンゲン隊長!ここは引きましょう!」
「何を馬鹿な!民を避難させ終えるまで引けるか!」
「ですが、“あれ”はもう我々の手に負えません!」
ここはゲシェンクの王都のほぼ中央。そこで妖魔殲滅第一部隊は戦いながら民を避難させていたが、妖魔の数も力も…イェンゲンの想像を遥かに越えていた。
そして今、部隊の目の前に立つそれは、紛うことなき<悪魔>そのものだった。
第一部隊がこの場に到着した時、既にこの街の民の三分の一は“あれ”に「喰われ」ていた。
このゲシェンク中央に封じられていた妖魔は、間違いなく序列第五位の〈グール〉であった。
グールは生きた人間を貪り食ってはその体躯を巨大化し、その欲に際限がない。その貪欲さ故に〈グール〉の名を冠せられた。
「隊長、これ以上は保ちません!即時撤退を!」
隊員の一人である魔術師がそう言った刹那…その者は何かの力に引き寄せられるかの如く、何の抵抗も出来ずに空へと舞い上がる。
「だ…誰か…!たすけ…」
恐怖と絶望が入り混じった表情でそう言うものの、彼はそれを言い終わらぬうちにグールの口の中へと吸い込まれ、叫ぶことも出来ず…グールに咀嚼されたのであった。
「…撤退だ!皆に防御魔術を!」
イェンゲンは直ぐ様防御の呪文を紡ぎ、他の魔術師らが犠牲にならぬ様に攻撃呪文も発動させながら退避した。
彼らは街の教会を目指した。そこには移転の陣があり、彼らは教会に着くや、直ぐにその場から王城へと逃げ帰ったのであった。
王城に着くや、イェンゲンは直ぐ様そこに残っていた魔術師らに状況を報告し、それをリュヴェシュタンのコアイギスへ連絡する様頼むや、各部隊の状況報告を聞いて唖然とした。
「ほぼ…全滅だと?」
「はい。第四部隊隊長のアデン殿は辛うじて帰還されましたが…第二部隊隊長ディーヒト殿、第三部隊隊長ヨッヘン殿は戦死されました。」
「あの二人の猛者が…死んだ…。」
イェンゲンは余りの事に、それ以上言葉が出なかった。
ディーヒトもヨッヘンも同期の魔術師であり、魔術も腕っぷしもイェンゲンに引けは取らない。そんな二人が戦死したとなれば、恐らく…もう少し戦っていたのなら、自分も「喰われ」ていた…。そう考えると、彼は恐怖してしまった。
魔術師は様々な感情をコントロールする術を心得ているが、イェンゲンのこの恐怖は別格であった。
イェンゲンはどうにか平静を取り戻し、魔術師以外の部隊について問った。
「神聖術者らは?」
その問いに、問われた魔術師は険しい表情をして返した。
「第一部隊はルーツェン隊長他数名を残し…ほぼ全滅状態であるとの報告を受けております。他の部隊からは…最早定時連絡も途絶えてしまっております…。」
その答えにイェンゲンは、自分は悪夢を見ているのかと思った。
魔術師
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