長い長い卒業式の始まり
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ると回転させる。ワイヤーなどが付いているトリックならば酷く絡まっていただろう。
たっぷり一分程の空中散歩をさせた後に元の位置にそれぞれ戻す。(これには旅の終盤に手にいれた僕の完全記憶能力がはたらいている)
『他に、信じられない方はいらっしゃいますか?』
先程宙に浮いた生徒達とその表情を見て、これを疑う者はもういないだろうと僕は踏んでいた。
だが、答えは否だった。
保護者席の方で老人が一人手を挙げているのが僕と歩未の目に留まる。座っていても分かる高身長で、体躯はひょろ長く痩せこけていて、(僕の能力の一つの虫眼鏡目で)近くで見ると静脈が浮き出ている腕を挙げている。
おおよそ70後半である見た目であるのにも関わらず、老人の挙げている腕は力強く、生気に溢れている。
『はい、そこのお爺さん!是非ステージまで来てもらえるでしょうか?』
不思議な感情を抱かせる老人を歩未が呼ぶと、老人は席を立ち微笑みながらこちらへゆっくりと歩いてくる。
とても感じのいい年寄りなのだが、なんだか不気味だと思うのは僕が彼に対して警戒しているからなのだろうか。
念のため頭の中をテレパス能力で覗いてみたが、能力への興味の言葉と感情しか覗けなかったので、とりあえずは単なる妹への思いからくる取り越し苦労といったところだろう。
和服を羽織っている老人の表情は気持ち悪いくらいに穏やかで、またその歩調は一歩一歩時を止め、そしてその動く一歩のみが時を刻む唯一の存在であるかのように錯覚させる。
なんなんだ、この気持ち悪い感覚。この老人からはヤバい匂いしかしない。本当に俗世の人間なのかと疑ってしまう程に。
タァン。タァーン。タァン。タァーン。
「久しぶりだね。乙坂有宇くん」
「はっ…」
気付いた時には老人は既に僕の目の前に立っていた。そして上から僕を見下ろしながら僕の名前を呼ぶ。背中に溢れる大量の汗がだくだくと流れて行く。
「あなたは・・・・一体何者なんですか?」
「私か?私は・・・・」
口から出た言葉はそこで打ち切られ、老人は意識を失ったようにその首は急にカクンと落ちる。
そして・・・・
再び老人が顔を上げたとき、その目は爛々と赤く燃えるように輝いていた。
充血してるだとか、太陽に反射して見えた錯覚だとかではなく、その目が光源になっているような鮮やかな赤い光を放っている。
「くっ…」
驚愕すると同時に反射的に目を瞑りながらバックステップで飛び退く。その暇がなかったとはいえ、他人を見捨て自分と歩未だけに能力の一つである防御壁(バリア)を張りながら。
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