帰郷しちゃった士郎くん!
[1/4]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
――必死の表情で、彼はこの手を掴んでいた。
腰から下が瓦礫に押し潰され、もう幾ばくの時も残されていないようなわたしを助けようと。
自分だって、今にも死んでしまいそうなのに。自分以外に生きてる人を、懸命に探していた。
わたしがまだ生きているのを見つけると、とても嬉しそうに目を輝かせて。まるで、助けられたのが自分の方であるかのような、そんな顔をして。
その様が、あまりにも綺麗だったから。もう、わたしのことなんて放っておいて、貴方だけでも生きてほしいと強く思った。
「先輩。――わたし、死にたくありません。こわい、です」
――なのに。わたしは、そんなばかなことを訴えてしまっていた。
エミヤ先輩は、血塗れの顔で、ギチギチと鋼の剣を擦り合わせたような音を出しながら、それでもはっきりわかるぐらい微笑んでくれた。
きっと、わたしの声は聞こえていないだろうに、喋る余力もないくせに、彼はわたしを安心させようと力強くうなずき、わたしを抱き上げて歩き始めていた。
嗚呼。わたしは今、安堵してしまっていた。命を救われるよりも、心を救済された。
彼と接した時間は短いけど、なによりも色づいた鮮烈なものだったと思う。エミヤ先輩とのふれあいが、わたしにはどれほどありがたいものだったのか、今にしてようやくわかった。
未練だ。まだ生きていたいと思ってしまった。だから情けなく、誰より大切なエミヤ先輩に縋ってしまって。……そんな駄目なわたしを、先輩は当たり前のように助けてくれようとした。
レイシフトが始まる。
炎に焼かれながら、煤と熱からわたしを守ってくれる人がいる。それは、なんて幸福なことなのだろう。
わたしはもう死ぬのだろう。体の半分が潰れても、生きていられる人間はそんなにいない。そんなことは先輩も理解しているだろうに。先輩は、わたしを安心させようと、声のない励ましを何度もくれた。
炎に包まれ、熱いはずなのに。
そんなものより、心の方が暖かかった。
わたしを抱き締めて。辛いものから守ってくれる。そんな、庇護者のような尊い人。
だけど、そんな人も、すぐに死んでしまうだろう。わたしよりも、よっぽどひどい状態だったのをわたしは見てしまっていた。
死なせたくない。この人を、死なせてはいけない。
心がそう叫んでいた。この人を守りたいと思った。そう思うことは、ひどく傲慢なことなのだろう。それでも、思うことは止められなかった。
先輩の手の大きさ、わたしを守るために見せる笑顔を、わたしはきっと忘れない。瞼に焼き付いた光景にどこまでも救われたから。
レイシフトした先で、先輩は無事ではいられないだろう。彼を助けたい、守りたい、思いだけが膨らんでいく。
なんてこと。わたしは
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ