第二章
V
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あやつは桁が一つ二つ違うでな。本人は気付いとらんようだが。」
「…まだ話してないのか?」
「未だ時期尚早だ。だが、知ったところでどうなる訳でもあるまい?」
「まぁ…それもそうではあるが…。」
シュトゥフは不服そうではあったが、今はそれを考えている場合ではないと反論を控えたのであった。
その時、不意に扉がノックされたため、シュトゥフが「入れ。」と言うや召使いらしき女性が食事を持って入ってきた。
「旦那様。今日はお加減が良いと聞き、お食事も多く致しました。失礼とは存じますが、お客様のお食事もご用意させて頂きましたが、宜しかったでしょうか?」
「おお、気が利くのぅ。シヴィル、食事にしようではないか。」
シュトゥフがそう言ったため、その女性はテーブルへと食事を並べた。それはとても良い香りを放ち、その香りに誘われるように二人は席に着いた。
「これはお前が作ったのか?」
「はい。お気に召しませんでしたでしょうか?」
マルクアーンの言葉に女性は少し表情を曇らせたが、マルクアーンは直ぐにそれを否定した。
「いや、良く栄養を考えられた食事に関心したのだ。その上、とても見栄えが良い。」
「恐れ入ります。では、私は下がらせて頂きますが、ご用がありましたらお呼び下さい。」
女性はマルクアーンの答えにそう言って笑みを見せ、直ぐに部屋から出て行ったのであった。
「あやつな、孤児だったのだ。戦が終わっても先の見えぬ時代じゃったからのぅ…。一度は城へ上げていたが、わしが王座を退いた時、あやつもついて来おった。全く…物好きじゃと思うがのぅ。」
「父と思うて慕っておるんだ。良いではないか…お前も娘と思うておるんだろ?」
「そりゃなぁ。だが、行く先短いこの老い耄れの面倒を見ておっては、良い縁も見付からんじゃろ?」
「お前がそれを言うな…。」
マルクアーンは半眼でシュトゥフを見るや、シュトゥフは「そう言うな。」と言って笑ったのであった。
シュトゥフは一人も妻を娶らなかった。無論、子もいない。
以前にも語ったが、彼は現バーネヴィッツ公であるクリスティーナを好いており、その想いが叶わぬと悟った時、一生妻を娶らぬと決めたのである。
「若き日のお前だったら、女が放って置かなかったと言うに。」
「遠き昔の話しじゃよ。今はほれ、こんな爺になってしもうたからのぅ。」
「ほんに馬鹿じゃな。ま、これだけの人に囲まれておれば、そんな余生も良いかも知れんな。」
そう言って笑うマルクアーンに、シュトゥフはほんの少し表情に陰りを見せて言った。
「お前もここに居れば良い。あんな塔に籠もらずとも、この島で妖魔は然程力は出せまいし、信頼出来る魔術師とて多く居る。」
そのシュトゥフの誘いに、マルクアーンはその表情を輝かせたが…直ぐに影のある笑みに変わった。
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