ターン2 魔界の劇団、開演
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鳥居浄瑠は朝が嫌いだ。朝はいつだって、ろくなことが起きない時間帯だと相場が決まっているからだ。その日出勤した彼を真っ先に出迎えたのもまた、ろくでもない話だった。
「……鳥居。すまん!」
おはようの一言もなく人の顔を見るなり頭を下げてきたのは、遠くからでもよく目立つ燃えるような赤髪の女上司。最初のうちは殊勝な上司の姿に一体何事かと慌てふためいたりもしたものだが、それはもはや遠い昔の話。毎日のごとく繰り返されるこの光景にもはやすっかり擦れてしまった感性はもはや心動かされることもなく、また面倒事起こしやがったなこのクソ上司、などと怒る段階すらもすでに超えてしまった。
だから、地獄の底から聞こえてくるかのように低く重く暗い無感情な声音で彼はこう問い返す。
「今日は何やらかしたんですか、糸巻さん」
口ではそう言いつつも、どうせ昨夜彼女が捕まえてきたコンビニ強盗関連の話だろうと内心ではあたりをつける。おおかたこの人のことだ、また頼んでもいないのに妖刀−不知火でも召喚して地面にぶっ刺したのだろう。業者に連絡を入れる程度なら、面倒ではあるがさほど手間でもない。
だが彼女の口から飛び出したのは、強盗関連というアプローチこそ正しかったもののその先は彼の予想を大きく上回る思いもよらない爆弾だった。
「ゆうべのチンピラ、もとい強盗だけどな、あれアタシがさっき逃がした」
「…………は?」
文字の羅列を彼の脳が意味を成す文章として受け入れることを全力で拒み、そこに含まれた意味からどうにか目を背けようと無駄な努力を繰り返す。そしていかなる努力も徒労に終わった時、ようやく目の前の上司が隠し切れない好戦的な微笑を浮かべている様子が見て取れた。
「まあ聞けよ、確かに独断なのはアタシが悪かったし、それはきちんと謝るからさ。ただ真面目な話、ちょっとした司法取引ってやつでな。これがまた、結構面白い話が聞こえてきたんだ」
「司法取引、ですか」
手近なところにあった来客用の椅子に腰掛け、腕組みして話を聞く姿勢に入る。この上司は人格的には手遅れだが、少なくとも腕は間違いない。その彼女が取引に乗ったからには、それなりに信憑性も利益も大きい話だろう。それにこの人は、今の態度を見る限り間違いなく口先だけはそれっぽいことを言えど自分が悪いことをしたとは欠片たりとも思っていない。これは、何を言っても聞き流されるのが関の山だろう。その証拠に彼女がその煙草に火をつけ煙を吹かしながら話を再開したのは、以前に彼自らが半ば目の前の女上司への当てつけによってでかでかと書いた禁煙の張り紙の目の前だった。
「アタシも最初は、ただのチンピラの苦し紛れだと思ったんだけどな。どうもその割には妙に細かいところまで設定が練ってあるからこれはもしかしたら
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