暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十九話来訪者は告げる
[5/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

「豊久さんたちが戦えているのはそのお陰です。常々兵器にだけは困らないのは銃後のおかけであると常々」

「この国の存続を助けられているのならば、父から継いだ爵位に恥じずに済むだろうね――私も彼が死んだと聞いた時には肝が冷えたものだよ」
 瞑目し、立ち上がると書斎の扉に手をかけた。
「さて、行こう。そろそろ客人達も到着しているだろう。そうだ、そういえば豊久君も大佐になったとか」
 扉が開く。茜も少しばかりぎこちなく立ち上がる。
「はい、九月の頭にと」
 廊下をゆっくりと歩みながら会話を交わし続ける。
「早いな、早すぎると潰れるぞ、半年前までは豊守さんが大佐だったろう、まだ三十にもなっていないだろうに。英雄にされるというのは面倒なものだな」
 そこまで語った若い子爵はふっと笑みを浮かべた。
「あぁなんだったか、“砲虎の馬堂”だったか」「頭を抱えていましたよ」
「それならば“騎兵殺し”が気に入ったのかな?」「やめてあげて下さい」
 芳峰は明るく笑った。
「馬堂も芳峰も戦争で肥え太ったと言われるがそれ以上に面倒が付きまとっている、怪しげな債権で賄われる税金で無理矢理太らされるよりも多少怪しげなものが混じっていても分散した出所の手形を受け取るほうがマシさ。
なにしろ税金の出所が潰れたら私まで潰れる。同じだ、怪しげな昇進で膨大な扱いきれない権限といっしょに責任を押し付けられるよりも多少は遅れていても段階を踏んで経験を積まないと不安定になるだけさ」
 茜は笑みを消して頷いた。
「分かります」「支えてあげなさい。馬堂家の欠陥は分かっているだろう?」
 芳峰は振り返り、茜に視線を向ける。
「肉親、身内が上官であり部下であること、えぇ分かっています。こうした状況だと頼るにも遠慮が出てしまいますからね」

「それに自身の裁量に干渉させるのも問題になる、父が責任をかぶろうと思えば被れる。根が真面目な人間だと余計なものを背負い込む。莫迦だと責任を感じないまま権限だけを振り回すが彼は背負い込む性質だろう?」

「そうですね、アレで真面目な子ですから」
 必要以上に澄ました口調の返答に芳峰は慌てて咳き込んだ。
「いやはやまったく!紫が聞いたら妬くだろうな――来客は?」
 家令が丁重に奥を示すと芳峰は口調を一変させる。
「君の本命だ――君も弓月の産まれとはいえ、これも時代なのかな」
「――弓月の為であり、馬堂の為です。皆が背負うのであれば私も背負いましょう」
 芳峰は薄く微笑んで尋ねた。
「惚れ込んでいるのかい?」「どうでしょう、妹と似ていて放っておいたら危なっかしいですから目を離せないことだけは確かです」

「姉妹だな、紫と同じことをいう――わかった、それでははじめよう」





「お待たせした。芳峰だ。
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ