第二章
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を引き攣らせたため、彼女は眉をピクッと動かして席を立ち、スタスタと厨房へと入って行った。
厨房に入ると、驚いているコックらしき人物に声を掛けた。
「済まんが、食用油はかなりあるかな?」
その問いに、脇から出て来た店主らしき男が答えた。
「お客さん…油なんぞどうなさるおつもりで?厨房に勝手に入られても困るんですがねぇ…。」
「なに、少しばかり試したいことがある。そうだのぅ…あの鉄鍋半分ほどあれば良いのだが。」
「そりゃ…そんくらいならありますがね…。」
「心配せんでも金は払う。後、川魚も何匹か用意してくれ。場所代も含めて相場の倍は出す故な。」
そう言われた店主は、首を傾げつつもそれらを奥の作業台へと直ぐに用意した。周囲のコック達も何が始まるのか興味津々と言った風で、事の成り行きを見ている。
「店主、麦の粉はあるか?」
「へえ…パン用のもんなら…。」
「まぁ、それで良かろう。この盆に二握り程入れてくれ。」
そう言いつつも、マルクアーンは手早く魚を捌いている。そして捌いた魚に塩を軽く振り、少ししてから水気を取って麦の粉をまぶした。
先に油の入った鉄鍋を火にかけてあったが、マルクアーンはそこに何の躊躇もなく魚を入れたため、店主は大慌てで言った。
「あんた何してんだ!」
「少し黙って見とれ。店が吹っ飛ぶ訳でなし、金は払うと言うておろうが。」
「そうじゃねぇ。あんた、食いもんを捨てる気か!?」
「捨てるために金を出す馬鹿はおらんよ。良いから、暫く見ておれ。」
その遣り取りをコック達だけでなく、厨房の外からルーファスらも見ていた。その後ろでは…他の客達さえも見物している有様ではあったが…。
そうしている内に川魚はこんがりと揚がり、マルクアーンはそれを皿に乗せるや、まだ熱い内に煮魚の甘辛い汁をかけた。
そこから立ち昇る何とも芳しい香りは、そこにいた全ての者の鼻を擽った。
「それ…食わせてくれねぇか?」
店主は堪らずに言ったため、マルクアーンは皿を渡して言った。
「良い。お前が最初に食うてみろ。」
マルクアーンの了承を得た店主は、早速それを徐に口へと運ぶと、サックリした食感に甘辛い汁が良く合い、中の魚はホクホクとしている。
その食感と味に店主は大層驚き、直ぐにマルクアーンへと調理法を教えてもらえるよう頼み込んだのであった。
この大陸に〈揚げる〉と言う調理法はなかった。
油は炒め物や焼き物を焦げつかさずに作るためのものであり、大量に使う代物ではないのだ。そのため、マルクアーンが行った調理は、端から見れば異端なのである。簡単に言えば、キチガイ料理…とも言えようか。
だが、それを食した店主は直ぐ様それを店に取り入れようとしたのだから、どれだけ美味かったのかが窺えよう。
さて、マルクアーンは店主と
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