暁 〜小説投稿サイト〜
許されない罪、救われる心
121部分:第十一話 迎えその十
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第十一話 迎えその十

「ゆっくりとね」
「わかりました」
「幾らでも食べていいから」
 如月にこうも話すのだった。
「本当にね」
「幾らでもですか」
「だって。久し振りに美味しいと感じられたのよね」
「はい」
「それならね。その感覚を楽しんで」
 だからだというのだ。
「それはとても素晴しいことだから」
「美味しいと感じることが」
「そう。今心が落ち着いてるわよね」
「とても」
 その通りだった。今の彼女はだ。その心にはっきりとした安らぎも感じていた。その感覚も長い間感じたことのない、忘れていたものだった。
「その通りです」
「だからね。もっとね」
「わかりました。じゃあ」
「そうだよ。美味しいと感じることは素晴しいことなんだよ」
 師走も言ってきた。彼もケーキを一切れ置いた皿とフォークを持っている。
「とてもね」
「先生はです」
「あれ、僕はどうなんだい?」
「甘いものは控えて下さい」
 水無の言葉は彼には厳しかった。
「糖尿病になりますよ」
「おいおい、ここでそんなことを言うのかい」
「ただでさえ日本酒がお好きなのに」
「お酒は百薬の長だよ」
「それでも飲み過ぎたら駄目です」
 実によく言われていることである。
「お酒だけでなく甘いものもですし」
「明治天皇だってそうであられたじゃないか」
「カステラ、羊羹、アンパン、アイスクリームですね」
「僕はどれも好きだよ」
「その結果明治天皇はどうなられました?」
 水無の言葉はここでも厳しい。
「一体。どうなられましたか」
「糖尿病に」
 師走は少し憮然となって述べた。
「なられたね」
「そういうことです。皇室はそれから糖尿病には気をつけておられます」
 皇室の方々の健康管理もまた宮内庁の仕事である。その厳しさには定評がある。少なくとも宮内庁は勤勉な官庁ではある。
「ですから先生も」
「やっぱり厳しいなあ、君は」
「これも先生の為です」
「やれやれ。妻や娘よりも厳しいよ」
 こんな言葉を溢しながらも結局そのケーキを食べる師走であった。如月はそんな二人を見ながらケーキを堪能した。そんな中でだった。
 ふとだ。このことに気付いたのだ。病室のべッドから上体を起こして水無と話をしている時に。
「あの、私やっぱり」
「どうしたの?」
「誰も来てくれませんよね」
 ここでも俯いて言った。
「お見舞いに」
「そうね」
「お父さんもお母さんも」
 その絆が壊れてしまっていることは彼女自身がよくわかっていた。もう家族ではないと、母に言われたことはまだ耳にそのまま残っている。
「それに睦月も」
「睦月?」
「弟です」
 こう水無に答えた。
「私の」
「そう、弟さんいるのね」
「そうなんです。その家
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ