120部分:第十一話 迎えその九
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第十一話 迎えその九
「少し」
「けれど好きだったのね」
「はい」
「それならね」
ここでまた話す水無だった。
「また好きにならない?」
「ケーキをですか」
「そう、またね」
水無は優しい声で如月にたずねる。
「好きになったらどうかしら」
「私は」
「まだ無理かしら」
「いえ」
水無のその優しい言葉に安心してだった。それでだった。
「何とか」
「やってみるのね」
「やってみます」
そうするというのだった。
「じゃあ」
「ええ。じゃあ行きましょう」
「わかりました」
如月のその言葉に頷いてであった。そうしてだ。
病室に戻って水無のそのケーキを食べることになった。そのケーキはだ。チーズケーキだった。ブラウンの外側と白い内側のコントラストが映えている。
水無はそれを如月に見せたうえでだ。話すのであった。
「じゃあ城崎さんはね」
「はい」
「これを食べて」
一際大きな一切れを差し出してきてからの言葉だった。
「どうぞ」
「これをですか」
「ええ、どうぞ」
そうすればというのである。
「好きなだけ食べて」
「好きなだけですか」
「食べられるだけね」
水無はこうも言い換えてきた。
「食べて」
「いいんですか?」
水無のその優しさに思わず問い返した。
「あの、本当に」
「そうよ。いいから」
「そうですか」
「だから食べて」
「それじゃあ」
如月は彼女のその言葉を受けてであった。チーズケーキを食べる。するとだった。
久し振りの感覚だった。それを感じ取れた。
「美味しい・・・・・・」
「美味しい?」
「はい、美味しいです」
こう水無にも述べた。
「とてもです」
「そう、美味しいのね」
「何か。久し振りです」
チーズケーキのその穏やかな甘さを感じながら。こう話した。
「美味しいのって」
「忘れていたのね」
「忘れていたんですか」
「そうよ、忘れていたのよ」
そうだったというのだ。
「貴女は。ずっとね」
「忘れていたんですか。美味しいという感覚を」
「辛かったわよね、ずっと」
「はい」
また糾弾され続けていたことを思い出す。その中ではだ。何を食べても味を感じなかったのだ。
家では家族の敵意と憎しみに満ちた言葉と表情に迎えられてだ。味なぞ確かめることすらできなかった。そして学校でもそれは同じだった。
ゴミや残飯を糾弾と称して口の中に入れられ吐く日々だった。そうした中ではとてもだ。味わうことなぞできはしなかったのである。
それで美味しいという感覚をだ。久し振りに感じられたのだ。
「美味しいです・・・・・・」
「味わって」
水無は包み込む声だった。
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