119部分:第十一話 迎えその八
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第十一話 迎えその八
「それなのに私は・・・・・・」
「過去は消えないよ」
師走はこうしたことも話した。
「けれどね」
「けれど・・・・・・」
「未来は変えられる」
そうだというのである。
「それに過去から人は変えられるんだ」
「私が、ですか」
「僕も思うよ。過去の君は最低だったよ」
そのいじめをしていた頃だ。その頃はというのだ。
「そして今も君はうちひしがれている」
「・・・・・・・・・」
見るも無惨なまでだった。身体だけでなく心もだ。あまりにも惨たらしい有様になっていた。それが今の彼女であった。
「けれど未来の君は」
「これからの私は」
「違うんだ」
如月を見ての言葉だった。
「全くね」
「全くですか」
「そう、違うから」
「それじゃあこれからは」
「歩いていくんだ」
そうしろというのであった。
「いいね」
「歩けばいいんですか」
「そう、前にね」
これが師走が彼女に言うことだった。
「前に。歩いていくんだ」
「誰もいなくて何もなくても」
「光があるから」
「光・・・・・・」
「そして今は確かに誰もいないかも知れない」
現実であった。今の如月の現実だ。
「そして何もなくても」
「誰も。何もなくても」
「これからは違うよ。誰かが来てくれて何かができるよ」
「そうなんですか」
「だから。歩くんだよ」
こう如月に言うのである。
「立ち止まるのも仕方ないけれど」
「立ち止まるのも」
「そう、時としてはね」
それもいいというのだ。
「いいんだよ」
「そうなんですか」
「歩くのが無理なら。けれど」
「けれど」
「光は常に見るんだ」
「光は」
「そう、光はね」
見るべきだとだ。また如月に話した。
「そこから目を離したらいけないよ」
「そうなんですか」
「そうだよ、いいね」
師走の声は優しい。如月を包み込むものだった。
それは彼だけではなくだ。水無もであった。
彼女はここでだ。如月にこう話すのであった。
「それでね」
「それで」
「お日様を満足するまで見たらね」
「はい」
「そうしたら病室に帰りましょう」
「病室にですか」
「ケーキ。好きかしら」
水無はそれを話に出してきた。
「それはどうかしら」
「ケーキですか」
如月はケーキと聞いてだった。幼い頃の誕生日のことを思い出した。
母が自分で作ってくれたデコレーションケーキを食べた。弥生も一緒だ。二人で笑顔でそのケーキを食べた。そのことを思い出したのである。
そのうえでだ。こう水無に答えた。
「好きでした」
「今はどうかしら」
「今は」
過去を思い出して今を思い浮かべてだ。また俯く如月だった。
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