暁 〜小説投稿サイト〜
許されない罪、救われる心
115部分:第十一話 迎えその四

[8]前話 [2]次話

第十一話 迎えその四

「それがあったから」
「アップルジュースですか」
「果汁百パーセントだから身体にもいいし」
 それもだというのだ。
「早く食べましょう」
「わかりました」
「林檎は栄養の塊だから」
 よく言われていることである。林檎はビタミンは非常に豊富なのだ。それでドイツでは医者いらずとさえ呼ばれている程なのである。
「ビタミンを摂るとね」
「何かあるんですか」
「それだけカルシウムの吸収がよくなって怪我の回復も早くなるから」
「怪我の」
「そうよ。怪我がなおるのよ」
 そうだというのである。
「だから早くね」
「怪我がなおっても」
「怪我がなおっても?」
「それでも。もう」
 こう言う如月だった。
「私、もう・・・・・・」
「食べましょう」
 水無は如月の言葉を遮ってきた。
「林檎ね。アップルジュースも」
「けれど」
「美味しいわよ。だからね」
 やはり先は言わせないのだった。そしてだ。
 如月を病室の中に入れてそうしてだ。そのうえで二人で食べる。
 水無は皮を剥かない。ベッドの中に入った如月の傍に座ってそのうえで林檎を切ってだ。そのうえで差し出すだけであった。その理由も話した。
「林檎の栄養とか美味しさはね」
「美味しさもですか」
「そうよ。皮にあるのよ」
 だからだというのだ。
「正確に言えば皮のすぐ下にね」
「それは聞いたことがあります」
「皮もなのよ」
 そして皮もであった。
「皮も美味しいのよ。それは知ってるわよね」
「はい」
 水無のその言葉にこくりと頷く。
「それは」
「それを食べて欲しいからなの」
「有り難うございます」
「それとジュースだけれど」
 ジュースの話もしてきた。
「味はどうかしら」
「美味しいです」
 一杯飲んでからだ。そうしてからの言葉だった。
「甘くて。この甘さは」
「だから果汁百パーセントよ」
「だからこの味なんですか」
「味、いいでしょ」
「優しい味ですね」
 実際に口の中はだ。果物のジュースを飲んだ後独特の甘ったるさを感じていた。しかしその甘さはだ。彼女にとってもとても優しいものだった。
「このジュース」
「そうでしょ。飲んでね」
「あの」
「あの?」
「どうしてなんですか?」
 ジュースを飲む手を止めてだ。水無に問うた。
「どうして私にこんな」
「こんなって」
「病院にも来てるじゃないですか」
 言葉を出す顔は虚ろだった。その声もだ。感情が消えてどうにもならなくなっていた。
「私が何をしてきたか」
「あれね」
「病室からは聞こえませんけれど」
 それでもだった。

[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ