97部分:第七話 聖堂への行進その四
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第七話 聖堂への行進その四
「それが私の。ただ一つの願いです」
「そうなのですね」
「王は。常に縛られています」
これは皇后も同じだ。それが君主というものなのだ。
「傍に誰かがいて見ていて」
「そして言葉が来て」
「そうしたものがない時はありません」
「それがかえって翼を求めますね」
「だからですね。貴女もまた」
「はい」
皇后は王のその言葉に対してこくりと頷いた。
「その通りです。ですから旅を」
「私はそれがワーグナーなのです」
「彼ですか」
「若しワーグナーがいなければ」
どうなるのかと。王は話す。
「私は生きてはいけません」
「この世では、ですね」
「はい。あの出会いは運命だったのです」
今その目にだ。ローエングリンをはじめて観た時のそれが浮かんでいた。それを見ながらであった。王は皇后に話していくのであった。
「私はその運命に従います」
「そうなのですか」
「ワーグナーと常に共にいたいのです」
王はさらに語っていく。
「あのミュンヘンで」
「王都で」
「そうです。あの都は私にとってはそうした場所です」
「ワーグナーと共にいる為の」
「それ位いいのではないですか?」
ふとだ。王は甘えも見せた。
「王にとって。それ位のことは」
「常に何かに追われている者としてはですね」
「そうです。王はこの世のあらゆる雑事が来ます」
それが王であった。王の責務であるのだ。
「ですから。その慰めとしてです」
「ワーグナーが」
「その芸術がです」
こう話すのであった。
「私にとっては必要なのです」
「それではです」
王の言葉を聞いてだ。皇后は優しい声で彼に告げた。
「貴方は」
「私は」
「そのワーグナーと共にです」
「共にですか」
「そうです。その心を通わせていることです」
「それが私の為なのですね」
「はい」
その通りであるとだ。王に告げる。
「そうです。是非」
「わかりました。それでは」
「ただ。それが困難であっても」
「困難であっても」
「貴方はそれから逃げてはなりません」
従弟の繊細なものがそうしてしまうのをだ。彼女は見抜いていたのだろうか。その言葉は切実なものにさえなっていた。そうした言葉だった。
「必ずです」
「必ずですか」
「そうです。いいですね」
王の整った顔を見ての言葉だった。
「貴方は。そうするのです」
「そうですか」
王は皇后の言葉を受けた。そしてだった。
その言葉を心に刻み込んだ。そのうえで。
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