96部分:第七話 聖堂への行進その三
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第七話 聖堂への行進その三
「ワーグナーの周りもです」
「彼の周りもですか」
「何かと。中傷の声があるのです」
そうした状況になりつつあることはだ。王もよく知っていた。それが彼の今の現実の一つだった。そうした状況にあったのである。
「彼をミュンヘンから追い出そうとしているのです」
「あの都からですか」
「どう思われますか」
皇后に顔を向けてだ。そのうえで問うた。
「そのことは」
「貴方は。ワーグナーを愛していますか」
皇后が王に問うのはこのことだった。
「それはどうなのですか」
「愛していないと言えば嘘になるでしょうか」
王は顔をあげた。そこには青い空がある。青い空には白く清らかな雲がある。その青と白、何処までも清らかなそれを見上げながら。皇后に話すのだった。
「肉体的なものでなく。精神的にです」
「愛しているのですね」
「それがワーグナーです」
こう話すのだった。
「ワーグナーの芸術は。私を捉えて離しません」
「その彼のですね」
「私は。おそらく」
王はだ。顔を前に戻してだ。また話すのだった。
「彼の為にいるのでしょう」
「彼の為にですか」
「そうです。まだ小さい時にその著を知り」
それからだった。その時から全てがはじまったのである。
「そしてローエングリンを観て」
「あの白鳥の騎士ですね」
「あの青銀の世界」
二つの色が今一つになっていた。
「あの世界と触れて以来です。私は彼の虜となったのです」
「それが今の貴方ですね」
「ワーグナーの芸術。それこそが至高のもの」
彼にとってはだ。まさにそうだったのだ。
「私は彼なしではいられません」
「しかしミュンヘンではなのですね」
「何故彼を中傷するのか」
気付いていた。しかし王はあえてそれを見ないのだった。それを見るにはだ。彼の心はあまりにも繊細なものだったからである。
「それが私には耐えられないのです」
「変わりませんね」
それを聞いてだ。皇后は述べた。
「貴方のその心は」
「変わりませんか」
「ええ。子供の頃から」
その頃からだと。皇后は話すのだった。
「貴方のその純粋さは変わらないですね」
「そうでしょうか」
「貴方はあまりにも純粋です」
皇后の目はここでは悲しいものになっていた。王を慈しみながら。そのうえで悲しみを感じずにはいられない。そうした顔だった。
「その純粋さは素晴しいのですが。けれど」
「けれど、ですか」
「その純粋さが貴方を追い詰めてしまわないか」
それを言うのだった。
「そうなってしまわないでしょうか」
「わかりません」
王自身もだ。こう答えるしかなかった。
「それは」
「貴方自身もですか」
「私は。ワーグナーと共にいたいのです」
王
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