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永遠の謎
95部分:第七話 聖堂への行進その二

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第七話 聖堂への行進その二

「そうされますね」
「私は」
「それについては私は何も言いません」
 皇后もまた微笑んでだ。王に話した。気品に満ち溢れた微笑みだった。
「もう私はバイエルンの人間ではないのですから」
「オーストリアの」
「はい。ハプスブルク家の人間です」
 少しだ。寂しげな目になっての言葉だった。
「ですからもう」
「そうですね。ヴィッテルスバッハではなく」
「ハプスブルクです」
 またそれだというのだった。
「ですから」
「双頭の鷲ですね」
「それが私の今の紋章です」
「ですね。お互いに何もかもが違ってきています」
「はい。本当に」
「けれど私は」
 ここでだ。皇后の言葉が変わってきた。
「昔を忘れません」
「私もです」
 王もだというのであった。
「あの頃のことは」
「いい思い出です」
 王はここでも遠い目になっていた。そのうえでの言葉だった。
「とても」
「そうですね。バイエルンにいたあの頃のことは」
 どうかとだ。二人は話していくのであった。
「私の娘時代の。素晴しい思い出です」
「あの頃に戻りたいですか」
 王はふとだ。こう皇后に話したのだった。
「やはり」
「いえ」
 しかしだった。皇后は王のその言葉に目を暗くさせて。そのうえでそうではないとだ。拒む声で告げたのであった。
「それは」
「そうですか」
「私はオーストリア皇后です」
 そしてこう王に話した。
「ですから」
「そうですね。私はバイエルン王ですね」
「お互い。あの頃とは変わりましたね」
 王もまた、だった。その目を暗くさせて述べた。
「あまりにも」
「それが今の私達ですね」
「ええ、確かに」
「今の私達は」
 どうかとだ。皇后は述べていくのだった。
「多くのものに囚われています」
「王として、皇后として」
「もう子供ではありません」
 今度の言葉はこうしたものだった。
「楽園から出て。そして現実の世界にいるのです」
「現実ですか」
 現実という言葉にだ。王はさらに暗い目になった。そこに何かしらの疎ましさを見せながら。そのうえでまた皇后に話すのだった。
「現実は。何を生み出すのでしょうか」
「何かとは」
「私は王になりました」
 そのことをだ。自分から話したのだった。
「そしてワーグナーを呼び寄せましたが」
「日々その芸術家と話をしているそうですね」
「はい、話さずにはいらえません」
 そうだとだ。皇后に話していく。
「ミュンヘンにいる時はどうしても」
「それが今の貴方なのですね」
「現実にあるものは醜いものです」
 王は語る。今はその目に悲しいものを見せている。そうしてそのうえでだ。皇后に対して話していく。そうしているのだった。

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