93部分:第六話 森のささやきその十六
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第六話 森のささやきその十六
「芸術だ。それが心だ」
「その技術と心が」
「陛下にとっての鉄と血」
「そうなのですね」
「そうなる。私にとっては軍隊はまだいい」
それはだというのだ。
「騎士ならばいい」
「しかし戦争はですか」
「どうしてもなのですか」
「どの様な場合でも。好きにはなれない」
どうしてもであった。王は戦争の中で生じる、見えてくる人間の醜さを知っていた。だからこそそれを余計にだ。忌むべきものとしているのであった。
「ビスマルク卿のそこはだ。どうしてもだ」
「ですが陛下、最早です」
「両国の関係はです」
「わかっている。避けられそうもない」
どちらもそのつもりはない。さすればだった。
そして王はだ。あることの決断も迫られていたのであった。それは。
「我がバイエルンもだ」
「はい、どうするべきか」
「それもまた問題です」
「戦いは避けられない」
この前提があった。
「そしてバイエルンはだ」
「オーストリアにつかれますね」
「やはり」
「そうするしかない」
これもまただ。王には嫌になる程わかっていることだった。
「ここはな」
「しかしプロイセンはですか」
「やはり」
「勝ちますか」
「それは間違いないな」
王はそこまで見抜いていたのであった。
「しかしバイエルンはだ」
「それでもオーストリアにですか」
「つかれますか」
「今の時点では好戦的なプロイセンよりもだ」
これからはわからないとだ。言外で言いながらだった。
「そうではないオーストリアの方がいい。それに」
「それに?」
「それにといいますと」
「カトリックだ」
次に言われたのは宗教のことであった。
「オーストリアは同じカトリックだからな」
「余計にですね」
「そうだというのですね」
「そういうことだ。それでいいな」
「はい、それでは」
「戦争の時はその様に」
おおよその話が決まってきていた。戦争はまだはじまってもいない。しかし政治としてのそれはだ。もうはじまっているのだった。王が本心ではそのことをどう思っていようともだ。
王は今はモーツァルトを聴いていた。そのオーストリアの音楽を。プロイセンの音楽ではなくオーストリアのそれにだ。身を浸らせていたのだった。
第六話 完
2010・12・26
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