80部分:第六話 森のささやきその三
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第六話 森のささやきその三
「オーストリアの次は」
「フランスだが」
「ナポレオン三世は策謀を好みます。それにどうするか」
「案ずることはない。策謀といってもだ」
どうかとだ。ビスマルクは軽く話す。
「たかが知れている」
「たかがですか」
「そうだ。知れている」
こうモルトケにだ。軽い調子で話すのだった。
「やることも見えている」
「それもですね」
「だからだ。仕掛けてきたならばだ」
「その時は」
「こんな言葉がある」
ビスマルクは素っ気無く言った。また牡蠣を食べ終える。するとすぐに新しい皿が来た。
「策士策に溺れるだ」
「策にですか」
「あの御仁に相応しい言葉だ」
その言葉こそがだと。ビスマルクは話す。
「そういうことだ。仕掛けてくればだ」
「その時にこそ」
「必ず来る」
ビスマルクは確信さえしていた。
「あの御仁はな」
「そうですな。あの御仁は何かと口を挟むお人です」
それはモルトケもわかっていた。二人共全てわかっているのだった。
そのうえでだった。二人は言うのであった。
「では。まずはオーストリアを終わらせて」
「その通りだ。そのオーストリアだが」
「勝ち取られるものはやはり」
「いや、多くは求めない」
ビスマルクはそれはしないと言った。
「勝利を収めオーストリアを抑えるだけで充分だ」
「今後を考えますと」
「そういうことだ。確かに大ドイツ主義はプロイセンにとって不都合だ」
大ドイツ主義とはオーストリア主導でのドイツ統一だ。それはプロイセンにとっては決して受け入れられるものではないからだ。だからだ。
「しかしだ。プロイセン主導のドイツが成立したならばだ」
「そのドイツだけではやってはいけないからこそ」
「オーストリアはそのドイツの友邦にしなければならない」
ビスマルクはそこまで考えているのであった。
「それとロシアとはだ」
「決して戦ってはなりませんね」
「カール流星王もナポレオンも敗れた相手だ」
だからこそだというのだ。それは避けるというのだった。
「ドイツは鉄と血で成立するがだ」
「しかしそれと共に平和もまた」
「鉄と血で護る。戦争なぞは統一されればもうすることはないのだ」
あくまで政治としての一手段だというのだ。それが彼の考えだった。
それでだ。彼等は言っていくのだった。
「ロシアともだ」
「では東はオーストリア、ロシアと手を結び」
「南のイタリアとも交流を深めていこう」
ビスマルクはイタリアも見ていた。
「あの国も遂に一つになろうとしているからな」
「だからこそですね」
「そうだ。何はともあれオーストリアは」
「勝利だけを求め」
「多くは求めない。後を考えてだ」
「わかりました。それでは」
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