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永遠の謎
72部分:第五話 喜びて我等はその十

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第五話 喜びて我等はその十

「彼女にとってな」
「ウィーンではなくですか」
「エリザベート様にとってですか」
「そうだというのですか」
「そうだ。彼女にとってだ」
 これが王が残念だということだった。彼女にとってであるのだ。
「ウィーンは合わないのだ、彼女にとっては」
「オーストリアは非常に厳格です」
「格式に全てを固められています」
「それではエリザベート様がです」
「あまりにも気の毒です」
「厳し過ぎる」
 王は俯きながら言った。
「太后殿が特にだな」
「はい、そうですね」
「あの方がとりわけ厳格だとか」
「皇帝陛下のお母上の」
「あの方が」
「あの方が実質的なハプスブルク家の主だ」
 王はわかっていたのだ。このことまでもだ。
「夫君である大公殿以上にだ。皇帝陛下にも影響力を持っている」
「そして宮廷にもですね」
「皇帝陛下は非常に保守的な方だそうですが」
「それをさらに強いものにさせているとか」
「そうだというのですね」
「その通りだ。それはこの国も同じだがな」
 王はバイエルンもそうだというのだった。
「因習が多くしかも強い。仕方のないことだがな」
「王家ならば何処でもですね」
「まさにそうだというのですね」
「ハプスブルクもヴィッテルスバッハも」
「それはある。だがハプスブルクはそれが特に強い」
 王はまたハプスブルクのことを話した。
「シシィが旅に出るのも道理だ」
「始終森や湖を御覧になられているそうです」
「ですが異性は近づけないとか」
「馬に乗られ場所の中から世界を見られ」
 そうしているというのだ。彼女はだ。
「心を癒されているそうです」
「しかしだ」
 王はまた言った。
「彼女は愛してもいるのだ」
「陛下をですね」
「皇帝陛下を」
「あの方を」
「それは間違いない。シシィはあの方を愛してもいる」
 それもあるというのだった。愛は確かにあるのだとだ。
「だからこそ苦しんでもいるのだ」
「一体どうするべきなのでしょうか」
「このことは」
「どうすれば」
「わからない」
 王もだ。このことには首を横に振るばかりだった。
「鳥は宮廷には留まれない。篭の中にはいられないのだ」
「だからこそですか」
「あの方は旅を続けられる」
「左様なのですか」
「どうするべきか」
 また言う王だった。
「それが問題なのだが」
「ウィーンが変わればいいのでしょうか」
「それともあの方が」
「ウィーンが変わることは難しい」
 王はそれについては悲観的であった。
「あの宮廷はとりわけだ」
「歴史ですね」
「それによって」
「そうだ、歴史だ」
 まさにそれによってである。王は見ていた。

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