70部分:第五話 喜びて我等はその八
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第五話 喜びて我等はその八
「私はそれを観させてもらう」
「では陛下」
「全てを彼に委ねる」
そのオペラについてだ。トリスタンとイゾルデについて。
「必ず素晴しいものが出来上がるぞ」
「ワーグナー、そこまで」
「素晴しいものを築き上げますか」
「そうだ。今度だ」
ここでだ。王はこんなことを言うのであった。
「歌劇場に行こう」
「ミュンヘンのその」
「王立歌劇場にですね」
「私だけではない」
王はさらに言うのだった。
「彼もだ」
「ワーグナーもですか」
「彼もまた」
「陛下と共に」
「彼と共にあの歌劇場に入り」
そうしてだというのだ。王はそこで何をするのか。周りに語るのだった。
「そこで芸術について何処までも語り合いたい」
「芸術をですか」
「陛下が愛されているそれを」
「あの御仁と共に」
「彼の芸術こそが私の待っていた芸術なのだ」
言いながらだ。瞼の中にローエングリンを観る。それは無意識のうちに、自然に彼の瞼の中に浮かんできたのである。まさにそうしたものであったのだ。
「あの音楽、そして舞台」
「全てがですね」
「陛下が待たれていたものだと」
「幼い時にあの白鳥の騎士を知り」
そのローエングリンをだというのだ。
「そしてだ」
「そのうえで、ですか」
「あのオペラを御覧になられた」
「白鳥の騎士を」
「現実のものだったとは思えない」
ローエングリンの舞台は。そうだったというのである。
「あれは夢だったのだろうか。いや」
己の言葉を否定してだ。そのうえでさらに話す王だった。
「夢ではない。私は確かに観たのだからな」
「そのローエングリンだけでなく」
「そのトリスタンもですね」
「このミュンヘンで上演されますね」
「私がはじめて観るのだな」
そのトリスタンをというのである。
「そうだな」
「そうなります」
「ウィーンでの上演は果たされませんでした」
「ですから」
「そう、そのトリスタンだ」
王の言葉は恍惚となったままである。顔は上を見ておりさながら天上の存在を仰ぎ見るようであった。彼は今はその様にして語るのだった。
「一体どうしたものか。早く観たいものだ」
「既に脚本は出ていますな」
「彼自身が書いた脚本がです」
「既に」
ワーグナーは脚本もまた自分で書くのだ。彼は己の芸術の全てを統括する。ただ音楽だけには止まらない人間、それがリヒャルト=ワーグナーなのである。
「それはもう御覧になられましたね」
「お読みになられたと思います」
「読んだ。しかしだ」
王は認めながらもさらに言うのであった。
「それだけだ」
「読まれただけ」
「そうだと仰るのですか」
「それは」
「ワーグナーは読んだだけではわかりはしないも
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