67部分:第五話 喜びて我等はその五
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第五話 喜びて我等はその五
そしてすぐにだった。ワーグナーに多くのものが授けられたのだった。
「豪奢な屋敷に別荘まで」
「馬車もあれば年金もだ」
「それに借金も肩代わりか」
「そこまでは予想通りだが」
王宮に出入りする者達はここで王のワーグナーへの対応にいぶかしまざるを得なかった。それでだった。
「それ以上にだな」
「王は常にワーグナーと会われたいと仰る」
「実際にそうされる」
「あれではまさに」
「寵臣だ」
この言葉が出た。
「陛下の寵臣だ」
「そしてワーグナーはだ」
「遠慮を知らないようだ」
このことがだ。彼等の危惧の元だった。
「年金だけではない」
「金を湯水の様に使う」
「あれだけ使っていてはな」
「借金漬けになるのも当然だ」
「一体どういう金銭感覚をしているのだ」
このこと自体が彼等にとってはいぶかしむに値することだった。
「あの男、止まることを知らず金を使う」
「使用人達に気前がいいのはいいことだが」
「しかし、服は常に絹だ」
言うまでもなくだ。絹は贅沢なものである。ワーグナーは絹を愛しているのだった。
「絹以外は身に着けようとはしない」
「それ以外はという」
「まずはそれだ」
服だけではないというのだ。
「とにかく金についてあまりにもな」
「何かにつけ贅沢だ」
「おまけに贅沢だけではないぞ」
「その女癖も酷いものだ」
ワーグナーのこのこともまた問題になろうとしているのだった。
「バレエのダンサーや使用人に手をつける」
「その前には支援者の妻と不倫の仲になったらしいな」
「その通りだ」
「そうしたこともあった」
このこともだ。ワーグナーにとって悪名になっていた。
そしてだった。とりわけである。
「弟子のハンス=フォン=ビューローの妻だが」
「フラウ=コジマか」
「あの女性だな」
「フランツ=リストの娘の」
この女が出て来たのであった。
「あの女とか」
「既に娘がいるぞ」
「あれはリストの娘ではないのか」
「違うのか」
「名前を見ることだ」
その娘の名前にこそ謎があるというのだ。その名は。
「イゾルデというな」
「イゾルデ」
「イゾルデというと」
「彼の作品のヒロインだ」
それだというのであった。
「まだ上演されていないがな。ウィーンでの数多くの練習の末上演されなかったというあの作品のな」
「その作品のヒロインの名前があるということは」
「その娘の父親はやはり」
「ワーグナーだというのか」
「まさかとは思うが」
「いや、そのまさかだ」
そのことがだ。真実だというのである。
そのことに気付いてだ。誰もが顔を顰めさせるのだった。
「弟子の妻をというのか」
「どういった男なのだ、ワーグ
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