あの艦隊の提督と白露型
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し、バケツをひっくり返し、半泣きで走って行った。
すぐに戻ってきた五月雨から夕立はフェイスタオルを受け取ったが、提督に渡されたのはなぜかソース染みのついた台拭きらしきものだった。
何か恨まれるような事をしただろうか。
──心当たりが多過ぎる。
提督は黙って台拭きで顔を拭った。
日差しが照りつける地上戦演習場。
演習場の見回り点検をしていた提督は、あまりの暑さに敷地の端にある木立に逃げ込んだ。
木陰を抜ける風は心地よく、提督はしばらく休んでいくことにする。
風に揺れる葉の音に加え、水の流れる音がすることに気付き、喉の渇きを覚えた提督は木立の奥に歩みを進めた。
サラサラと流れる水の澄んだ小川があり、提督は川べりに腰を下ろして水を掬って顔を洗う。
人心地ついた提督は靴と靴下を脱ぎ、足を水に浸けてくつろぐ。
「ン! 提督じゃン。提督も涼みに来たのかい?」
いつの間にか舟を漕いでいた提督に白露型の艦娘、江風が川の対岸から声を掛けた。
赤い髪を風にふわりとなびかせ、素足にサンダル履きの江風はスカートを軽くつまんで持ち上げ、小川をザブザブと渡り提督のすぐ横に腰掛けた。
「ここは風が気持ちいいよなァ」
川の上を吹き抜ける冷たい風。水面に反射する陽光。その中で江風の姿がキラキラと映える。
半分寝ている提督は江風をまるで天女のようだと形容した。
「天女だなンて、照れるじゃねーか……って寝言かよ??」
2人が帰ったのは日が落ちかけてからだった。
「まったく、どこに行っていたんですか。心配したんですよ」
帰りを営門で待っていた白露型の七女、海風が2人を叱る。
「江風、お姉ちゃんは心配しましたよ」
「う、ごめんよ姉貴」
「提督も、みんな心配したんですからね」
完全に日が沈むまでお説教は続いた。
秋の夜風に雲が流れて月が顔を出す。
巡検も終えた提督は庁舎から出て風の向くまま気の向くままフラフラ歩いていた。と、そこに声がかかる。
「よっ、提督! なにやってんでぃ?」
声をかけたのは白露型駆逐艦の艦娘、涼風だ。風呂上がりらしく風呂桶を小脇に抱えている。
提督が夕涼みがてらの散歩だと答えると、涼風は隣に並んで歩き始めた。
「今の季節はこの時間はもう涼しいからいいよな。真夏なんて風呂から出た瞬間に汗が吹き出すから困っちまう」
なるほど設備に改善する必要があるなと提督は言い、ついでに湯冷めしないようにと涼風に言う。
「いや、あたいはそんなにヤワじゃねェさ──へくち!」
可愛らしいくしゃみをする涼風。
言わんこっちゃないと提督は涼風の手を取り足を早めた。
閉め切っていた執務
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