あの艦隊の提督と白露型
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提督は海風に悪いとは思い断るが、二度三度と譲り合って結局は提督が折れた。
砂浜を駆ける姿を見つめながら、海風は独りごちる。
「もう少し独り占めしていても良かったかしら」
呟いた言葉は波音にかき消された。
蝉の鳴き声が響く夏の夕暮れ。
提督はふらふらと基地内の売店に行き、送る相手もいない絵葉書などを買ってみた。
そして、外に出た瞬間に雷雨に見舞われた。
蝉も鳴き止む大雨。
これは参った、身動きが取れないと困り果てる提督。するとそこに、ちょうど良く外出帰りの艦娘、夕立が傘をさして通りかかった。
「あっ、提督さん!」
手をブンブン振り、パシャパシャと雨水を飛び跳ねさせながら駆け寄る夕立に、提督は傘の意味ないんじゃないかと苦笑する。
「提督さん、一緒に帰りましょ」
ニコニコしながら誘う夕立に、しかし提督は雨足が弱まるまで待つと答え、夕立は先に帰ると良いと告げる。
途端に夕立はニコニコ顔を引っ込めてふくれっ面をしてみせる。
「むー、一緒に帰りたいっぽいー」
夕立はそう言ってグイグイと提督を引っ張り、さしていた傘を提督に押し付ける。
「傘も貸してあげるからお荷物も大丈夫っぽい」
そういう問題ではないのだが。
というか、制服で傘をさすのは服装容儀違反だ。
「むぅ。……あ!」
夕立はポムンと手を打つ。
「あたしにいい考えがあるっぽい!」
良い考え、とは思い付いた人間にとっての“都合の”いい考えである。という言葉を提督は思い出した。
現状が夕立にとって良いか分からないが。
夕立が傘を差し、提督に差し掛ける。
1人にちょうど良いサイズの傘に2人収まるはずもなく、夕立も提督も身体の半分はずぶ濡れだ。バカな事をしているなぁと提督は思う。
ふと見た夕立のマフラーが随分重たそうに思え、提督は首を傾げた。
どうしてそんな暑そうで重そうなマフラーをまいているのか。
「だってコレは、提督さんが褒めてくれたから」
提督が夕立に訊ねると、そんな答えが返ってきた。
改二になり、それまでと違いすぎる自分に戸惑っていた時に提督が似合うと言った。だから着用し続ける。
提督はマフラーだけを褒めたつもりはないのだが、マフラーも含めて似合っていたのは確かだ。しかしなんだかコーディネイトしてもらった勝負服を延々と着続ける喪男のように思えてしまう。
そんなことを考えているうちに提督と夕立は庁舎に帰り着く。
滴り落ちる水滴をどうしようかと提督が思案しながら扉を開けると、白露型の六女、五月雨がモップで床を拭いていた。
「おかえりなさい! ずぶ濡れじゃないですか!」
ちょっと待ってて下さいと言って五月雨は奥に走って行こうと
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