第六章
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「だからだ」
「林檎もだぎゃな」
「食べていこう、いいな」
「わかっただがや」
坂口は刺身を食いそして日本酒も飲んでから応えた、おちょこの中の日本酒は辛口の冷酒で魚によく合った。
室生は坂口と共に彼自身の言葉通り毎日ウメのところに行き落語を語った、すると実際に彼が言った一週間目でだった。
少しだけ微笑んでだ、こう室生に言った。
「お母さんに落語の本を買ってもらいました」
「そうなのか」
「それで私もです」
「落語をか」
「したいと思いました」
「では退院したらだな」
「はい、落語をして」
そしてとだ、ウメは室生に顔を向けて話した。
「日本一いえ太平洋一の落語家になる」
「なるか」
「そうなりたいです」
「ならだ、早く元気になることだ」
室生はウメに微笑んで言葉を返した。
「まずはな」
「元気にですね」
「笑うことだ。落語の本を読んでな」
そのうえでというのだ。
「いいな」
「はい、それじゃあ」
「落語を語るのに性別は関係ない」
この世界では特にそうだ、女流落語家は全体の半分程だ。これは落語に限らず他の分野でも同じことだ。
「だからな」
「はい、本を読んでお話してみていって」
「そうしてだな」
「私太平洋一の落語家になります」
「それではな」
「早く元気になります」
室生にこのことを約束した、そして実際にだった。
ウメは程なくして病が癒えた、退院は時間の問題だった。室生はその彼女に自分からも落語の本を何冊も渡した。そうして彼女の笑顔での別れの返事を受けてだった。
坂口と共に大間を後にする、そこで彼の手にあるものが宿った。それはというと。
「保元物語か」
「軍記ものだがや」
「そうだ、持っているとな」
手の中にこの書があると、というのだ。
「戦のことがわかる」
「采配に関係するだぎゃな」
「かなりな」
「そうだぎゃ」
「これで私は新たなものを得た、そしてだ」
室生は自身の隣にいる坂口にこうも言った。
「試練を終えてな」
「そして強くなっただぎゃな」
「その実感もある、ではだ」
「これから行くだぎゃ」
「次の目的地にな、ではだ」
こう言ってだった、そのうえで。
室生は足を進めた、立ち止まることはしなかった。そうしなければならないことは彼が一番わかっているが為にそうした。その足取りは確かなものだった。
この世の最後に 完
2018・12・29
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