第五章
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他の貴族達もクトゥーゾフのこの策には首を縦に振ることは容易ではなかった。だがクトゥーゾフは彼等を説得し。
シベリアから民達を疎開させ街にあるものは全て持ち去った、そうして街に火を点けて空城となった街を敵に明け渡した。
モスクワに入城したナポレオンはそこからロシア政府との交渉を行ったがロシア政府は交渉に応じない、そうこうしているうちにクトゥーゾフはモスクワの南からフランス軍を囲み補給路を断った。その中でクトゥーゾフは陣地で肌で気温を感じて言った。
「あと少しだ」
「少し?」
「少しといいますと」
「時が来る」
その時があと少しだというのだ、こう言ったのだった。そして遂にだった。
その時が来た、雪が降りロシアの冬が来た。するとフランス軍は忽ちのうちに冬の寒さにやられた。
ナポレオンはその状況を見て止むを得ずモスクワから退却した、だがここでクトゥーゾフは徹底的な追撃戦を仕掛けコサック達も出て来た。
欧州中から戦力を集めた大陸軍はその追撃と寒さそして餓えの為次から次に倒れ広大なロシアを満身創痍になりながら逃げ続けロシアを脱出出来た者は僅かだった。ナポレオンも命からがらフランスに辿り着いた有様だった。
ロシアは勝った、即ちクトゥーゾフは正しかった。だが彼もまた冬の寒さの中で倒れてこの世を去ってしまった。
皇帝は戦争が終わってからこう言った。
「クトゥーゾフは正しかった」
「はい、だからこそ我々は勝ちました」
「フランスそしてあの英雄に」
廷臣達もこう言った。
「多くの犠牲も出しましたが」
「それでも勝ちました」
「彼はわかっていたのだ」
皇帝はこうも言った。
「大陸軍と正面から戦っても勝てない、だがロシアは広く寒い」
「その広さと寒さを使えば勝てる」
「そのことがわかっていましたね」
「そうだったのだ、だからこそ彼は戦わなかったのだ」
ナポレオンがモスクワを占領し冬になり彼がモスクワから撤退をはじめるまでだ。
「戦わずとも勝てることがな」
「そのことがよくわかりました」
「クトゥーゾフ将軍はまことの英雄でした」
「戦争そしてロシアのことがよくわかっていた」
「私も今そのことがわかった」
フランス軍をロシアから退け戦いが終わってからだ、アレクサンドル一世もわかったのだった。
ナポレオンのロシア遠征は彼の没落の決定打となったと言われている、これにはロシアの広さと寒さがあったがクトゥーゾフはそれをわかったうえで戦わずあえてロシアの奥深くまで引き込んだ。ロシアがソ連となった時もナチスドイツとの戦いではそうして戦い勝っている、真の名将は戦う場所のこともわかっているという。そう考えるとクトゥーゾフは真に名将であった。戦わなかったがそれも戦略であったと今では言われている。百戦百勝は必ずしも最
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