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辛い禁酒
第三章

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「そんなお人やからな」
「流石に最近はないですね」
「そらもう監督やないからや」
 解説者になっている、それではというのだ。
「流石にや」
「そんなにですね」
「そや、怖いことはないわ」
 こう記者に話した。
「ユニフォーム脱いでるからな」
「だからですね」
「けれど監督やった時はな」
「もう羽田さん殴ったみたいに」
「あれ大抵の選手が経験してるからな」
 阪急、そして近鉄の選手達がというのだ。
「雷も怖いが拳もや」
「滅茶苦茶怖いですね」
「あんな怖いもんはない。それでや」
「今井さんも一年ですか」
「禁酒や、あれはほんまきつかった」
「そんなにですね」
「もう二度と経験したくない、一年やで」
 これだけの間とだ、今井は記者に顔を向けて話した。
「飲めんとかな」
「今井さんにとっては」
「あんなに辛いことはなかった、そやからな」
「もう二度とですね」
「経験したくない、そして今はな」
「こうしてですね」
「飲めるってほんまええわ」
 日本酒をぐい、ぐい、と美味そうに飲みつつ言うのだった。
「最高やで」
「それでは」
「今日も心ゆくまで飲むか」
「後でウイスキーいきます?」
 記者は今井に笑って言った。
「そうします?」
「そやな、流石に今日はこれから家に帰るし」
「間違って西本さんのお家に帰るとか」
「それはないわ」
 記者に笑って応えてだ、今井はまた酒を飲んだ。居酒屋で飲むその酒は実に美味いものだった。
 しかし翌日球場でだ、今井は試合前の練習中に開設者としてチームの状況を観に来た西本に言われた。
「御前また飲んでな」
「わかりますか?」
「わかるわ。飲む過ぎん様にな」
 西本は苦笑いになった今井に笑って返した、流石に今は怒らず笑っての言葉であった。


辛い禁酒   完


                      2018・8・5
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