第一章
[2]次話
辛い禁酒
今井雄太郎は酒豪で知られている、阪急ブレーブスの選手達の中でもその酒好きと強さは随一だと言われていた。
エースである山田久志も酒が好きだ、だがその彼も今井についてはこう言った。
「あいつは俺以上に強いからな」
「酒はですね」
「山田さん以上ですね」
「ほんま強いわ」
感心して言うのだった、とかく今井は酒が好きでその強さについては誰にも負けないとさえ言われていた。
しかしそれを驕る様な今井ではないその温厚で円満な人柄と愛嬌のある外見の為人には好かれていた。
その中でだ、ある新聞記者がベテランと言われて久しくなっていた今井と共に酒を飲みながら尋ねたことがあった、
「やっぱり今井さんはお酒ですよね」
「あぶさんでもしょっちゅう描かれてるしな」
ホークスを舞台にしたパリーグの漫画の話である、長期連載したことでも知られている。
「確かにわしめっちゃ酒好きやで」
「そうですよね、ただ」
「ただ?何や」
「今井さんをプロに入れた西本さんですが」
西本幸雄のことだ、彼が阪急ブレーブスに入団した時にその阪急の監督で後に近鉄バファローズの監督として敵味方に分かれたこともある人物だ。
「あの人お酒は飲めないですね」
「そやねん、ノムさんも飲めへんやろ」
野村克也だ、言わずと知れた名キャッチャーでありスラッガーでもあり後に名将の一人にも数えられた人物だ。
「あの人も」
「お二人共なんですよね」
「西本さんもノムさんも甘いもの好きでな」
「西本さんはケーキでしたね」
「そやねん、これが」
「それでその西本さんが監督で」
記者は今井にあらためて話した、二人で日本酒を飲み肴に箸を進めながらそのうえで楽しく談笑している。
「困ったこととかありました?」
「これがあったんや」
今井は記者に少し苦笑いをして答えた。
「実はな」
「やっぱりそうですか」
「西本さんは飲まへんだけやないやろ」
「物凄く怖い人ですね」
「もうグラウンドではな」
それこそというのだ。
「鬼みたいで何かあるとや」
「雷ですね」
「鉄拳も飛んでくるしな」
あまりにも有名な西本の拳だ、鉄拳制裁も辞さない厳しい指導と選手とチームのことを想う熱い心に基づく育成でチームを強くしていった監督なのだ。
「もう怖いで」
「そうした方でしたよね」
「それで今から話すけど」
「どんな話があったんですか?」
「これがな」
今井はコップの中の酒を飲みつつ記者に話した、それは彼がノンプロからプロ入りしたまだ新人と言っていい頃のことだ。
今井はキャンプの時も飲んでいた、この夜もそうで彼は日本酒を一升空けた。
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