636部分:第三十六話 大きな薪を積み上げその十三
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第三十六話 大きな薪を積み上げその十三
「特にあの御仁はそうだった」
「いかがわしい人物でしたね」
「山師と言うべきだったでしょうか」
「庇護者や弟子の妻に手を出す」
実際にワーグナーがしたことだ。紛れもない事実だ。
「しかも個人の生活にまで国庫をを使ってはだ」
「擁護できるのは陛下だけでした」
「しかしその陛下も」
「庇いきれるものではなかった」
王といえども限度がある。そういうことだった。
「それが故に彼はミュンヘンを去ることになったのだ」
「陛下の理解者がですか」
「あの方が」
「他にも理解者はおられるのだが」
「誰でしょうか、それは」
「一体」
周囲はすぐに大公に問い返した。それが誰なのかをだ。
彼等のその問いにだ。大公はすぐに答えた。とはいっても晴れている顔ではなかった。
「オーストリア皇后であるエリザベート様にだ」
「あの方ですか」
「我がヴィッテルスバッハ家の」
「そうだ。まずはあの方だ」
それは一人ではないという言葉だった。そうしてだ。
さらにいるとだ。大公は話していく。
「そしてもう一人はだ」
「もう一人おられるのですか」
「それは一体」
「ビスマルク卿だ」
このこともわかったのだ。今になって。
「あの方も陛下の理科者であられるのだ」
「あの方もですか!?」
「しかしあの方はです」
「プロイセンの宰相でしたし今はそのドイツ帝国の宰相です」
「それでは」
「だがそれでもだ」
王と彼は対立する立場であってもだというのだ。ビスマルクは王の理解者だというのだ。そのことを話してだ。大公は周囲の彼等を見た。
そのうえでだ。こう問うたのである。
「信じられないか」
「はい、あの方がとは」
「とても」
「しかし事実だ。あの方もまた陛下の理解者なのだ」
「だからだったのですか。これまで何かと陛下に助言等をされてきていた」
「資金援助も」
「あの方は陛下を愛されている」
立場を超えてだ。そうなっているというのだ。
「理解者として愛されているのだ」
「そうだったのですか。あの方もまた」
「陛下の理解者だったのですか」
「そうだったのだ。だが御二人はミュンヘンにはおられない」
かけがえのないだ。その二人がだというのだ。
「あの方の理解者が近くにいなかった。それが故にだ」
「今の陛下がある」
「そうだったのですか」
「悲劇だ」
大公は悲しい、これまで以上にそうした顔になって述べた。
「あの方にとってもバイエルンにとっても」
「しかし悲劇は終わるものですね」
周囲のうちの一人が述べた。
「そうですね」
「そうだ。舞台は必ず終わる」
例えそれがだ。どうしたものでもというのだ。
「それが今なのだ」
「しかしです」
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