第三章
[8]前話
「あの人に言われてそれを出したのですね」
「これはまたきついお言葉」
「ですがそうですね」
「そう言われると否定しません」
こう言うが表情も仕草も軽い、余裕がそこにあった。
「私にしても」
「やはりそうですか」
「父上もヘラ様に戻って欲しくてです」
「新しい妻を迎えるとですか」
「言われたのです」
「そしてその妻はですか」
「はい、只の樫の木の像です」
それに過ぎないというのだ。
「つまり芝居です」
「そして妻を迎えると世に言えば必ず私が来る」
「そうなると確信していましたので」
それ故にというのだ。
「父上にお話しましたが」
「全く以てやってくれましたね」
「ですがヘラ様は戻られました」
このことは紛れもない事実だというのだ。
「この通り、まさかまたすぐに出て行かれはしませんね」
「私は戻ってきました、戻ってすぐに出て行くなぞ」
それこそとだ、ヘラはヘルメスに目を怒らせたまま答えた。
「しません」
「左様ですね、では」
「全く、何かと思えば」
「ゼウス様がお待ちです」
ヘスメスは戻って来たヘラにこうも話した。
「お詫びと仲直りにと」
「仕方ないですね、ではあの人と会いましょう」
「そうされて下さい」
「全く、私もまだまだですね」
オリンポスに戻りはした、だがヘラはまだ憤懣やるかたないといった感じだ。その感情を表情にも出して言うのだった。
「暫く戻らないつもりでしたが」
「それがですね」
「この様なことで戻るとは」
「ヘラ様ならば必ずと思っていました」
「そう読まれていることも癪です」
「ですが来られたからには」
「仕方ありませんね、あの人のところに行きましょう」
ヘラもこう言ってだ、ゼウスのところに向かった。そうして彼の平謝りを聞いてまたするに決まっていると思いつつも和解することにした。こうしてヘラは従神達と共にオリンポスに戻った。全ては神々の夫婦喧嘩であった、世の誰もがこう思ったが表立っては言わずそっと神話の中に書き残しただけであった。
新しい妻 完
2018・9・4
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