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永遠の謎
635部分:第三十六話 大きな薪を積み上げその十二
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第三十六話 大きな薪を積み上げその十二

「全てはな」
「では。バイエルンの為に」
「殿下も」
「しかし。陛下の御身はだ」
 どうかというのだ。王の安全は。
「何があろうとも御護りするぞ」
「はい、それはです」
「何としても」
「私はあの方の叔父にあたる」
 そしてだ。王が幼い頃から知っている。それだけに愛情が深いのだ。
「それでどうしてだ。あの方を害することができるのか」
「わかっております。それは」
「我々も同じです」
「残念だ。あの方程王に相応しい方はない」
 言葉は現在形だった。今もだ。
「だが。それでもだな」
「退位しかなくなりました」
「バイエルンにとって」
「あの方はバイエルンそのものなのだろう」
 大公はこうも言った。
「最早この国はドイツの中の一つに過ぎない」
「ドイツ帝国という主権国のですね」
「その中の」
「あの方は誰よりもそのことをよくわかっておられる」
 玉座は見られる者が座れば全てが見られる。そういうことだった。
「だからなのだ」
「それ故にですか」
「あの方は」
「全てを見られているのだ」
 王の玉座、唯一のその座からだった。
「そしてなのだ。この世から離れられたのだ」
「最早動くことができないから」
「それ故にですか」
「その通りだ。今それがわかってきた」
 こう話すのだった。周囲に。
「遅過ぎた。それがわかることが」
「ではあの一連の築城は」
「そして一人だけの観劇は」
「その沈んだ御心を癒す為であり。そして」
「そして?」
「まだあるのですか」
「あの方が愛されているものをこの世に映し出されているのだ」
 城達がそれだった。観劇は癒しのみだが。
「そうされているのだ」
「何と。癒しだったのですか」
「それであったと」
「そのことを気付くのが遅かった」
 悔恨の言葉だった。それに他ならなかった。
「私もだ。あの方はあまりにも繊細な方なのだ」
「では。やはりあの方はですね」
「狂気には」
「オットーとは違う」
 まことの意味で狂気に捉われているだ。彼とはというのだ。
 大公も彼についてはその狂気を否定できなかった。しかし王はというと。
「あの方は正常だ」
「狂気には陥っておられない」
「では」
「そうだ。あの方を理解できる者がお傍にいれば」
 そしてそれは誰かというと。
「ワーグナー氏か。あの御仁がいればな」
「ワーグナー氏ですか」
「あの方がなのですか」
「あの御仁は陛下の理解者だった」
 王に芸術の目を目覚めさせただけはあるというのだ。
「だからこそだ」
「しかしあの方はです」
「その。どうしてもです」
「あれでは」
「せめてあの御仁がな」
 大公はここでもだ。悲しい顔になった。
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