第一章
[2]次話
勝てぬもの
坂上田村麻呂は朝廷の命を受けて蝦夷攻めを行った。そして阿弖流為という蝦夷を率いる一人の男と激しく戦った。
彼は阿弖流為に敗れた、だがここで言うのだった。
「敵であるがだ」
「見事だと」
「そう言われますか」
「うむ」
濃い髭が目立つ雄々しい顔で言うのだった、一軍を率いる将らしく大柄で胸板が厚く堂々とした体格だ。鎧も実に似合っている。
それでだ、こう言ったのだった。
「あれだけの者、破ってもな」
「それでもですか」
「例え勝とうとも」
「死なせるに惜しい、朝廷が敵と言って処刑を言っても」
それでもというのだ。
「私は死なせたくない」
「ではですね」
「助命をされてですか」
「本朝に迎え入れたい」
「そうお考えですか」
「朝廷はどうもあの者を処刑し後顧の憂いを断ちたい様だが」
強敵だ、その敵が生きていれば例え降してもまた敵になることを恐れてだ。それでそう考えているのだ。
「死なせるには惜しいまでの男だ、だからな」
「それでは」
「ここはですね」
「助命を行う」
「そうされますか」
「そして本朝に迎え入れて本朝の者として戦ってもらいたい」
こう言うのだった、そして実際にこう考えていた。それで戦の中で和睦の話になると田村麻呂としてもだった。
是非と思い阿弖流為と話をした、話をする彼は田村麻呂に負けないまでに大柄で逞しい身体をしており引き締まった顔立ちをしていた。
態度も堂々としていて一軍の将として相応しかった、それで田村麻呂は話をしている中で彼に言った。
「私が約束するからだ」
「だからか」
「そうだ、本朝に降ってだ」
そうしてというのだ。
「本朝の将になってみないな」
「そうしてか」
「私と共に戦わないか、そして」
「そしてか」
「そなたが率いる兵達と民達の安全は保障する」
「そういえば朝廷は我等の兵も民達も無闇に殺さないな」
「本朝は血は好まぬ」
これは神道に穢れの考えがあり血の穢れそして死の穢れは穢れの中で最も忌むべきものであるからだ。朝廷もその穢れを避けたくそこまですることもないと考えているのだ。
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