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永遠の謎
62部分:第四話 遠くから来たその十五
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第四話 遠くから来たその十五

「実際に悪しきものだろうか。彼を助けることは」
「そうは思いません」
「はい、私もです」
「私もまた」
 周りの者もだ。それは思っていなかった。
 悪だとはだ。誰もが思わないしその通りだった。しかしだった。
 彼等はだ。いささか怪訝な顔になってこう王に話してきたのだった。
「しかしです」
「陛下のワーグナー氏への想いはかなりのものですね」
「一人の音楽家にです」
「そこまでされるのですね」
 バイエルン王ともあろう者が、言外にはそうした言葉もあった。彼等にとって王と一介の初老の音楽家は全く釣り合わないものだった。
 しかしだ。王はこう言うのだった。
「私の名はこの一代で消えるが」
「しかしワーグナー氏はですか」
「違うと」
「そう仰いますか」
「彼は永遠に残る」
 こう語る王だった。
「人の世にな」
「そこまでの音楽家だと」
「モーツァルトやベートーベンの如き」
「あの音楽は」
「残る」
 王は確信していた。
「間違いなくな」
「左様ですか」
「残ると」
「それだけのものだ。ワーグナーは」
 音楽だけに限らないというのだった。その全てがだというのだ。
「だからこそ。私は愛するのだ」
「ワーグナーを」
「その全てを」
「間も無く来る」
 王の目が見ていた。その彼をだ。
「その彼がな」
「それはいよいよですね」
「彼がこのミュンヘンに来る」
「そのうえで陛下に会われる」
「そうなりますね」
「どれだけ待ったことか」
 愛しい相手を語る言葉だった。
「私は。どれだけ待ったことか」
 期日の問題ではなかった。心だった。
 その心を感じながらだ。彼は今言うのだった。
「彼を。それが今適うのだな」
「では陛下、その時ですが」
「会われる場所は何処にされますか」
「一体どちらに」
 王はそうした場所も決めなければならない。だからこそ周りの者はそこを何処にするのか尋ねるのだった。全ては周到にだった。
「どちらにされますか」
「その場所ですが」
「一体どちらにされるのですか」
「王宮だ」
 王は一言で述べた。
「王宮で会う」
「ここで、ですか」
「王宮で会われると」
「何と」
 王の言葉にだった。誰もが驚かざるを得なかった。王宮で会うということは公になる。王のその存在こそが公であり彼が住む王宮も公となるからだ。
 その公で会うとだ。王は言い切ったのだった。そしてであった。
 王はだ。王宮のその場所についても述べるのだった。
「大広間だ」
「王宮の大広間で」
「そこで会われるのですか」
「あの場所で」
「そうだ、大広間だ」
 まさにそこだというのだった。彼はだ、
「よいな」
「あの、それは幾ら何でも」

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