618部分:第三十五話 葬送行進曲その十七
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第三十五話 葬送行進曲その十七
「充分だ」
「わかりました。では私は最後の最後に」
「迎えに来てくれるのだな」
「それまでも陛下の御前に来させてもらいますが」
「そして私を導いてくれるか」
「それが私の務めなので」
それでだというのだ。
「陛下の御身辺のこともです」
「いざという時は護ってくれるか」
「はい。そうさせてもらいます」
「済まないな。何もかも」
「頼んだ。それではな」
「では今宵はですね」
「そうだ。私はこの日を待ち望んでいた」
王のその顔が急に晴れやかなものになった。
そしてその顔でだ。こう話すのだった。
「長い間な」
「しかしそれがですね」
「遂に果たされる」
晴れやかな顔には微笑みさえあった。そうしてだ。
その顔で騎士に語りつつだ。それを見るのだった。
「いいものだな」
「聖杯の城ですか」
「それが見えてきた。私が最後に辿り着くべき城に」
「ワーグナー氏は音楽でそれを築かれたのです」
「そして舞台としてもだな」
「陛下は今から陛下がやがて辿り着くべき場所を御覧になられます」
騎士も厳かな口調で王に話す。
「御期待下さい」
「期待してやまない」
王は素直にその感情を述べた。
「真に清らかな世界は森の中にこそあるのだな」
「そうですね。陛下が築かれた城達と同じ様に」
「私は森が好きだ」
「自然がですね」
「自然がありそれと城が一つになる」
それこそがいいというのだ。王の美意識は自然と城が一つになったものなのだ。
そしてそれに加えてだった。さらに。
「そして湖だな」
「水ですね」
「卿があの姫を救う為に渡った水だ」
「白鳥に曳かれて来たあの時ですね」
「私はその卿に魅せられて今がある」
王は今度はパルジファルではなくローエングリンを見ていた。その世界は既に王の中ではすぐに現われる、そうしたものになっていた。
それを見ながらだ。王は話すのだった。
「卿の姿をミュンヘンで観てからだ」
「でしたね。私もあの時に陛下に御会いしました」
「既に書では知っていた」
読みそうして知ってはいた。だが、なのだ。
「そこでは会っていたがだ」
「しかし舞台として御会いするのはですね」
「あの時がはじめてだったからな」
「そこから全てがはじまったからな」
そうしたことを話してだった。王はだ。
ワインをまた飲む。美酒は自分で入れていた。そうしてなのだった。
「では。私の辿り着くべき世界を観よう」
「ワーグナー氏の最後の作品を」
「それも観よう」
王は今からだった。ワーグナーのその最後の歌劇を観に向かった。ミュンヘンは今真夜中だった。王はこの日も夜に劇を観ようとする。
深夜に静まり返っている歌劇場の中を進む。キャンド
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