612部分:第三十五話 葬送行進曲その十一
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第三十五話 葬送行進曲その十一
王に対してだ。微笑んで述べた。
「陛下の」
「そうなのだろうか」
「陛下はこう考えておられますね」
「わかるのか。私の考えが」
「はい。おおよそですが」
「では言おう。私はだ」
どうかというのだ。王自身の口で話すのだった。
「間も無く己の果たすべきことを果たし終える」
「だからこそですか」
「そうだ。ホルニヒを去らせた」
「陛下にこれから降りかかることから避けさせる為に」
「私一人がどうなればそれでいい」
王自身はいいと言うのだ。しかしそれでもだった。
ホルニヒのそのいつも忠義を捧げるその心を瞼に思い浮かべてだ。言うのだった。
「しかしそれでもだ」
「それでもですね」
「彼が巻き込まれることは避けたい」
「そうですね。ですから陛下は彼を」
「他の者もだ。既に私の周りはだ」
既にわかっていた。王はだ。
「私に二心のある者が多くなってきている」
「彼等を取り除くことは」
「それはできる」
王としてだ。それは可能だというのだ。
だがそのことについてもだ。王は静かに言うのだった。
「だがそれをしたところで何になるのか」
「陛下は果たされるべきことを果たし終えられるからですね」
「彼等には好きにさせる」
あえてだ。そうさせるというのだ。
「どのみち私の時は少ないのだから」
「ではその時には」
「来てくれるな」
騎士を見てだ。王は言った。
「そうしてくれるな」
「無論です。その時は」
「待っている」
騎士を見てだ。王は述べた。
そのうえでだ。騎士にこうしたことも話した。
「その私の最後に果たすべきことだが」
「あの歌劇を御覧になられますね」
「そうだ。パルジファルだ」
ワーグナーの最後の作品、それをだというのだ。
「あの作品を観る」
「最後の最後に」
「それが私が最後にするべきことだ」
だからだというのだ。
「観て。そうしてだ」
「私と共にですね」
「そうだな。私は最後に観る」
パルジファル、それをだというのだ。
「そうさせてもらう」
「ではその様に」
「来てくれ。その時には」
果たすべきことを全て果たし終えたその時にはだというのだ。
そのことを述べながらだ。王はだ。
騎士に対してだ。ふと問うたのだった。
「私は愚かなのだろうか」
「愚かとは?」
「いや、狂っているのだろうか」
沈んだ顔でだ。騎士に問うたのである。
「やはり。だからこそ夜の中に人を避けて生きているのか」
「世間ではそう言われていますね」
「一人での観劇も。女性を愛せないことも」
そうしたこと全てがだった。周囲が狂気と言っている。それについてだ。
王はだ。騎士に問うのだった。
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