610部分:第三十五話 葬送行進曲その九
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第三十五話 葬送行進曲その九
「ですが」
「ですが?」
「何かあるのですか」
「あの方は。若しかしたら」
遠くを見た。この世にないものを。
それは王を理解する者だけが見えるものだった。それを見てだ。
皇后はだ。言うのだった。
「もうこの世で果たされるべきことが果たし終えられるかも知れません」
「この世で?」
「果たされるべきことを」
「そうです。間も無く終えられるかも知れません」
こう言うのだった。
「ワーグナー氏が眠られ。そして城達も築かれました」
「だからだというのですか」
「あの方は」
「はい、間も無くです」
皇后のその言葉に悲しみが宿る。
「私が何かをしても若しかすると」
「何にもならない」
「そうだというのでしょうか」
「そうかも知れません」
悲しみは表情にも移っていた。
「神の定められたことなら」
「ではあの方はです」
皇后の今の言葉にだ。侍女の一人が問うた。
「神に定められた方なのでしょうか」
「人は誰もがそうですが」
そう前置きしてからだ。皇后は王と神について話した。
「ですがあの方はです」
「その中でもとりわけですか」
「定められた方なのですか」
「おそらくはそうです」
断言はできなかった。人は神を完全には理解できないのだから。
だがそれでもだった。皇后は言うのだった。皇后の知ることができる限りのことで。
「あの方は神に定められ。そうして」
「そうして?」
「そうしてとは」
「あの世界、定められた者以外は行くことができない世界」
その世界が何かというと。
「モンサルヴァートに」
「モンサルヴァートですか」
「聖杯の城ですね」
「ワーグナー氏がその歌劇の中で描かれたという」
「あの城ですか」
「パルジファル。あの作品はです」
どうかというのだ。そのパルジファルという作品は。
「バイロイト以外では上演できませんね」
「はい、ワーグナー氏がそう主張されてです」
「あの場所以外での上演は許されていません」
「ですから観られた方は少ない」
「そうした作品ですね」
「しかしどういった作品かは聞いています」
皇后もだ。その世界は観てはいないが聞いてはいるのだ。
そしてその聞いたことをだ。皇后は今言うのだった。
「あの作品はまさにです」
どうかというのだ。そのパルジファルの世界は。
「あの方が入られる世界なのです」
「ワーグナー氏はあの方をパルジファルと呼んでおられました」
先程とは別の侍女が言った。
「ではあの方はあの城に」
「そうなるでしょう」
「それではあの方をお救いしてもですか」
「それは無駄だと」
「そう仰るのですか」
「いえ」
そのことはだ。首を横に振ってだった。
皇后
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