605部分:第三十五話 葬送行進曲その四
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第三十五話 葬送行進曲その四
樵達は自分達の前に不意に出て来た王に驚きだ。思わずその手を止めた。斧や鋸は木にそのまま入って残っているがそれは誰も目に止めなかった。
そのうえでだ。彼等は王に一礼する。その彼等にだ。
王は温和な笑みを浮かべてだ。こう言うのだった。
「そのまま果たすべきことをされて下さい」
「あの、しかしです」
「それは」
「私がいるからですか。それではです」
彼等の意を汲み取りだ。そのうえでだ。
王は彼等のところに自ら来てだ。そして静かに告げた。
「それでは今から休みましょう」
「あの、ご休憩ですか」
「ここで」
「そうです。丁度酒に食事も用意しています」
王は後ろを振り向いた。するとそこにはだ。
侍従達が控えていてだ。その手にワインや簡単な食事を持っている。
そしてそれを樵達の間にある切り株の上に置いてだ。あらためて言うのだった。
「こうしたもので」
「陛下のお食事ですが」
「それでもですか」
「はい、どうぞ」
彼等にそれを食べよとも言うのだ。
「召し上がって下さい。私と共に」
「何と。陛下がわし等とですか」
「わし等の様な者とですか」
「信じられません」
「気紛れだと思って下さい」
王は微笑みこう彼等に話した。
「私のそれだと」
「そう言われるのならですが」
「そう思わせてもらいます」
「はい、それでは」
こうしてだった。彼等と共にだ。
王は食事を摂ったりもしていた。そんなこともあった。
だが基本的にだ。王はさらに人目を避ける様になったいた。夜のアルプスで馬車を走らせてもだ。月夜の下で無言でいるだけだった。
そしてだ。城に帰り周りに声をかけられてもだった。
「よかったと思います」
「それならいいですが」
「満足して頂けたのなら」
「今はです」
そして言う言葉は。
「これでいいと思います」
「これで?」
「これでといいますと」
「もう彼はいません」
ワーグナーのことを想っての言葉だった。
城に入る時に月を見上げる。月は青い光を放っている。
その三日月を見つつだ。王は言うのだった。
「気が晴れるのならです」
「いいというのですか」
「それで」
「はい、ではです」
ここまで話してだった。王は城の中に入りワインを飲む。チーズと共に飲みだ。そしてそのうえでだ。従者達にこんなことを言ったのだった。
「音楽ですが」
「何を聴かれますか?」
「ワーグナーを」
彼だった。ここでもだ。
「そして曲は葬送行進曲を」
「近頃よく聴かれますね」
「そうですね」
そのことは王も否定しなかった。そうしてだ。
周囲にだ。こうも言うのだった。
「どうもその曲を聴きたくなりますので」
「だからですか」
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