602部分:第三十五話 葬送行進曲その一
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第三十五話 葬送行進曲その一
第三十五話 葬送行進曲
ワーグナーの遺体を乗せた列車がバイロイトに向かう。その途中でだ。
ミュンヘンの駅に停まった。それは一時間に及んだ。
その間ベートーベンの葬送行進曲が演奏され多くの者達がこの芸術家に別れを告げた。
そのうえでワーグナーはバイロイトに帰る。そのうえで眠るのだった。
だが王はそのことを遠くで聞いてだ。こう沈んで言うのだった。
「あの曲を」
「あの曲とは」
「ベートーベンのでしょうか」
「いや、ワーグナーのです」
彼だった。こう侍従達に告げたのだった。
ノイシュバンシュタインのその壮麗な一室にいながらも心を沈ませてだ。王は侍従達に言ったのである。
「彼の葬送行進曲をお願いします」
「神々の黄昏のですね」
「ジークフリートが死ぬ時の」
「それをお願いします」
こう告げてだ。ワーグナーのその音楽を聴くのだった。
暗く沈んだその曲を聴きそうしてだった。
王は今は一人佇んでいた。そして曲が終わるとだ。
こうだ。周囲に告げた。
「では下がって下さい」
「お一人にですか」
「なられると」
「今はそうして下さい」
これが今の王の言葉だった。
「この部屋にいますので」
「わかりました。それではです」
「私達はこれで」
侍従達もオーケストラの一団もだった。王に一礼してそのうえで部屋を後にする。そうして残った王は一人ソファーに座ったままで。
項垂れその場にいた。この日から余計にだった。
王は人の前に姿を現さなくなった。このことは疑問に思う声が相次いだ。しかしだ。
ベルリンにあってビスマルクはだ。王についてこう言うのだった。
「ではそっとして差し上げろ」
「そうあるべきですか」
「今は」
「そうだ。あの方は友を失った悲しみに打ちひしがれておられる」
王を気遣ってだ。こう周囲に話したのである。
「ならば今は御心をそっとして差し上げるべきだ。いや」
「いや?」
「いやといいますと」
「このままそうし続けるべきなのかも知れない」
今だけに限らないというのだ。そうすることは。
「下手に何かするとあの方は余計に傷つかれる」
「そこまで繊細な方だからですか」
「あの方は」
「あれだけ繊細な方はおられない」
ビスマルクはわかっていた。王のその心が。
だからこそだとだ。彼は言ってだった。
そうしてだ。王の周囲についても言及するのだった。
「近頃バイエルンの宮廷で動きがある様だな」
「動き?」
「動きといいますと」
「あの方の芸術について不満を抱いておられるのだ」
「浪費だというのでしょうか」
「だからこそですか」
「そうだ。あの方の築城と歌劇だ」
まさに
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