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永遠の謎
597部分:第三十四話 夜と霧とその二十
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第三十四話 夜と霧とその二十

 ヴェネツィアにおいてだ。ワーグナーは周囲にこう漏らしていた。
 ピアノの席に座りだ。こう言ったのである。
「パルジファルが完成し上演が為された」
「はい、あのバイロイトで」
「遂にそうなりましたね」
「いいことだ」
 満足している声だった。しかしだ。
 その声には衰えが見られていた。明らかな老いがだ。
 青い目の光も弱まっている。その中で彼は周囲に話していく。
「そして第一幕の前奏曲もな」
「陛下にですね」
「お贈りすることができた」
 こう言うのだった。
「確かに悶着があったがな」
「はい、それでもですね」
「陛下にもお贈りすることができましたね」
「それは確かですね」
「そうだ。私の仕事は全て終わった」
 ワーグナーは満足している面持ちで呟いた。
「何もかもな」
「何もかもとは」
「どういうことでしょうか」
「休むか」
 言うのはこのことだった。
「少しばかりな」
「あの、休まれるとは一体」
「どういったことでしょうか」
「だからだ。そのままだ」
 何時になく落ち着いた口調でだ。話すワーグナーだった。
「私は休みたくなった」
「だからこの地に来たというのですか?」
「ヴェネツィアに」
「この場所に」
「イタリアか」
 イタリアという国そのものについてだ。ワーグナーは温かい目を向けた。
 そうしてだ。この国についてはこう話すのだった。
「この国は非常にいい。ドイツにとって」
「我が国にとってですか」
「そうだというのですか」
「そうだ。とてもいい」
 ワーグナーは話していく。
「温厚な気候に晴れ渡った空」
「そして美酒に美食ですね」
「文化もまた」
「ドイツはイタリアが好きだ」
 それは最早無意識にさえあるものだと言わんばかりだった。
「そしてイタリアもドイツが好きだ」
「相思相愛ですね」
「そうなっているのですね」
「我が国とこの国は」
「そうした関係ですか」
「神聖ローマ帝国があった」
 言うならばドイツ第一帝国だ。中央が弱く最後までまとまらなかった国だがドイツがどれだけイタリアに思い入れがあったのかを示すことにもなっている。
 その国についてもだ。ワーグナーは話す。
「あの国はいつもイタリアを見ていた」
「その為に内政がおろそかになってもですか」
「それでもなのですね」
「そうだ。そこまで思い入れがあったのだ」
 神聖ローマ帝国でもそうだというのだ。
「そしてゲーテもだったな」
「あの詩人も常にイタリアを愛していましたね」
「何度も赴いています」
「ドイツにとってこれだけ素晴らしい国はない」
 イタリアは微笑んで言い切る。
「この国で私は休むのだ」
「このイタリアで」
「そうされ
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