595部分:第三十四話 夜と霧とその十八
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第三十四話 夜と霧とその十八
言葉に疑問符を入れてだ。思わず問い返したのだった。
「あの城達をこのままですか」
「築城して頂くのが国家の負担になるがだ」
「ですからそれをお止め頂く為にも」
「違う。陛下は誰からも理解して頂けないことを憂いておられるのではないのか」
こんなことを言ったのである。深く思索する顔で。
「だからだ。あの城達は最後の最後まで築いて頂き」
「とりあえず決まっているまでですか、予算を」
「そしてあの城達はそのまま残しておくべきではないのか」
こう言ったのである。
「ですがそれは」
「それはですか」
「そうだ。私はあの城達は陛下そのものだとさえ思っている」
「ただ陛下はあの城達をです」
「御自身が亡くなられたらこの世から消して欲しいと仰っているな」
「そのことはどうされますか」
「本心とは思えない」
大公は少し読んでいた。あの城達のことをだ。
「あの方も人だ。理解して頂きたいのだろう」
「あの城達に罪はないですが」
「そうだ。少なくとも最後の最後までだ」
何とかだ。大公は王を護りたかった。自身の甥でもある王を。
それでなのだった。こうホルンシュタインに話した。
「どうだろうか。退位やそうしたことはまだ」
「思い留まってもらいたいというのですね」
「あの方は寂しいのだ。だからもう暫くだけだ」
「私もまだ何も実行に移していませんが」
「なら余計にだ」
「もう少しですか」
「そうしてもらえれば有り難い」
切実な顔と声でだ。大公は言った。
「そしてあの城達については私に考えがある」
「といいますと」
「その時が来れば話そう」
今ではなかった。それは。
「それでいいだろうか」
「わかりました。しかしです」
「バイエルンの為にはだな」
「陛下にとっては酷な言葉ですが国王もまた国家の機関なのです」
王権神授説、ルイ十四世が信奉したその後に出た啓蒙思想的な考えである。ホルンシュタインはそれを根拠にして述べるのだった。
「ですから」
「陛下が王として相応しくなければ」
「はい、国家財政を破綻させるならば」
それならばだというのだ。
「それも止むを得ないでしょう」
「財政は全てか」
「国家の柱であることは間違いありません」
ホルンシュタインはここではそのことを絶対としていた。
そしてそのことをだ。強く言うのだった。
「陛下の浪費は度が過ぎていますから」
「それはそうだが」
「ではいざという時は宜しいですね」
ホルンシュタインはにこりとせずにだ。大公の目を見て問うた。
「殿下がです」
「摂政にか」
「はい、オットー様が国王になられ」
「オットーは。しかし」
どうかというのだ。大公はこれ以上になく暗く悲しむ顔で。
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