593部分:第三十四話 夜と霧とその十六
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第三十四話 夜と霧とその十六
「そして陛下の臣です」
「それなら何故退位なぞ」
「ですからバイエルンにとっても陛下にとってもよいことを考えてます」
「それが退位なのか」
「あのままでは陛下にとってよくありません。そう」
そしてだった。あの王の名前を出すのだった。
「ルートヴィヒ一世陛下の時の様に」
「あの方の様にか」
「あの時はあれでよかったではありませんか」
ホルンシュタインは過去の出来事からも考えていた。ローラ=モンテスにいれあげていたあの王は退位により冷静さと尊厳を取り戻した。今の王から見て祖父にあたるその王のことをだ。
そのうえでだ。彼は言うのだった。
「ですから今回もです」
「だがそれは」
「私が陛下を害しようとしていると思われるのですか?」
このことはだ。ホルンシュタインにしても確認せざるを得なかった。それで大公に対してだ。これまで以上に強張った顔で問うたのである。
「もしや」
「それは」
「私は絶対にそうしたことはです」
「しないというのだな」
「ですから。私は陛下の臣です」
このことは絶対だった。バイエルンの人間としての。
「それでどうしてあの方を害しますか」
「では忠義故にか」
「このままではバイエルンの財政が破綻するのです」
そのことを憂いてだった。彼にしても。
「それを避ける為には」
「退位か」
「あの方はそうして穏やかに過ごして頂きます」
「それがいいのか」
「バイエルンにとってもあの方にとっても」
ホルンシュタインは現在の一面しか見えていなかった。そうしてだ。
彼はだ。こう言うのだった。
「それが一番です」
「そして私がか」
「はい、摂政になって頂けますか」
「私とてあの方をお慕いしている」
王の叔父としてだけではなかった。
「だから何とかしてさしあげたいが」
「それではここはです」
「あの方は孤独な方なのだ」
大公は眉を曇らせ暗い顔で俯いてだった。
そしてだ。こう言ったのである。
「その孤独をどうにかして理解させてもらうべきではないのか」
「それは可能ですか?」
「誰かできる筈だ」
何とかだ。退位は避けたい大公だった。
「ワーグナー氏はどうか。あの御仁は」
「駄目です、彼だけはいけません」
ホルンシュタインの声がうわずった。彼もまたワーグナーを浪費の根源と見ていた。
それでだ。大公の提案をすぐに否定したのだ。
「彼の金銭問題、女性問題は御存知の筈です」
「弟子の妻を奪ったな」
「それだけではなく女中や踊り娘にも手をつけるとの噂があります」
これが噂で済まないことが問題なのだ。ワーグナーの場合は。
「それに反ユダヤ主義であり何かと姑息なこともします」
「匿名で自身を擁護する投書もした
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