589部分:第三十四話 夜と霧とその十二
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第三十四話 夜と霧とその十二
「それでどうしてウィーンに馴染めるのか」
「ですがそれはです」
「ハプスブルク家にいればです」
「それはどうしても」
「だが皇后にはどうしても馴染めないものなのだ」
見事なまでのパラドックスだった。皇后とハプスブルク家の格式の。
「だからああして旅を続けているのだ」
「そしてバイエルン王は築城ですか」
「それをされているのですか」
「あの二人は自由の、そして自然の中にあるべきなのだ」
皇帝もわかっているのだった。そのことをだ。
だからこそ皇后に対してだ。何をするかというと。
「それで私は彼女に旅を許しているのだ」
「そうした理由からですか」
「そうされていましたか」
「私は皇后を愛している」
誰よりもだ。そして。
「皇后もまた私を愛してくれている」
「しかしそれでもですか」
「あの方は」
「そうしないと耐えられないのが皇后だ」
どうしてもウィーンの宮廷に馴染めずになのだ。
そうしてだった。旅を続ける皇后がバイエルン王と会う。しかしそのことについては王は何も思うことなくだ。やはりこう言うのだった。
「あの二人は会うべきでもあるのだ」
「バイエルン王ともですか」
「皇后様は」
「そうなのだ。バイエルン王はだ」
「皇后様とお二人でもですか」
「よいのですね」
「バイエルン王は女性には何もしない」
やはり女性には興味がないのだ。そうした王なのだ。
それでだ。皇帝はこんなことも言った。
「あの王は自身をワーグナーの作品の主人公達に投影しているが」
「あの城でローエングリンの服を着られているとか」
「そうだとか」
「そうらしいな。あの王はな」
このことはウィーンでも知られていた。そうだったのだ。
「そのことだ。自身をワーグナーの英雄と思っているがだ」
「それは違うのですか?」
「あの方はそうではないのでしょうか」
「いや、そうなのだろう」
皇帝はそのことは否定しなかった。王はヘルデンテノールだというのだ。
だがそのヘルデンテノールがだ。どうかというのだった。
「だが。男性的かというとだ」
「ワーグナーの作品の主人公は非常に男性的ですが」
「また違うのですか」
「何か女性的なものを感じる」
皇帝も遂にだ。そのことを感じ取ったのだ。
それで言うことだった。このことは。
「皇后と何処か似た」
「確かに御二人は似ているところが多いですが」
「それがですか」
「あの方にも」
「そうなのだ。どうも感じる」
皇帝は考える顔で述べた。
「王と皇后は似ているのだ」
「だからこそ女性的なのですか」
「あの方は」
「それがワーグナーの英雄なのだろうか」
ひいてはだ。そうなるのではとも考えるのだった。
「そ
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