587部分:第三十四話 夜と霧とその十
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第三十四話 夜と霧とその十
「あの城に。遂に」
「遂にですか」
「私は待ち遠しくさえ思っています」
王のその言葉は次第にだ。この世から離れていた。
そうしてだ。その言葉を皇后に述べるのだった。
「おわかりですね。私にとっては」
「この世は辛い」
「若しワーグナーがいなければ」
どうかとも話す。その彼がいなければ。
「私はこの世に生まれている意味がなかったかも知れません」
「いえ、それは違います」
王の今の言葉は皇后によってすぐに否定された。
そうしてだ。皇后はこう王に話した。
「ワーグナー氏がこの世に出て来たのは必然でした」
「必然ですか」
「そうです。あの方はあの芸術を描く為に生まれたのです」
「そうなのですか」
「はい、あのドイツそのものの芸術を」
「彼はそれだけの芸術を築き完成させる為に」
「この世に生まれたのでしょう」
ライプチヒにおいてだ。その年にナポレオンはその町で敗れている。ワーグナーの誕生はそうした意味においても歴史的なものでさえあったのだろうか。
そしてそのことをだ。皇后はさらに話す。
「そして指輪を完成させ」
「最後にパルジファルを」
「はい、そしてです」
「私ですか」
「貴方はその芸術を愛し護り」
ヘルデンテノールともだ。王は一つになっていた。
「そしてそのうえで」
「その芸術をこの世に」
「再現させる為にです」
「私もまた生まれたのですか」
「貴方の魂は不滅なのです」
他の者と同じくだというのだ。
「貴方は神によりワーグナー氏と共に定められていたのです」
「この世に生まれそうして芸術を」
「そうです。築かれる為に」
「そうだったのですか」
「はい、ですから貴方は」
「この世に生まれられるべきだった」
「そうして今おられるのです」
そうだったというのだ。皇后は。
そうしてだった。王に静かに述べた。
「何か飲まれますか」
「ワインでしょうか」
「若しくは他の飲みものを」
こうだ。王に提案する。
「何を飲まれますか」
「ではワインを」
王は穏やかな微笑みで皇后に述べた。
「それを頂きたいのですが」
「ワインですか。色は」
「そうですね。ロゼを」
赤でも白でもなくだ。それだった。
「それをお願いします」
「わかりました。ロゼですね」
「薔薇の美酒を飲みたいです」
王は薔薇も愛している。そのうえでだった。
美酒だけでなくだ。この花もだというのだった。
「そして青い花がありますね」
「この船にですね」
「ジャスミン。あの花がありましたね」
「あの花をどうされるのですか?」
「こちらに」
それまでただそこにいるだけだったホルニヒに顔を向けてだ。
そうしてだ。こう彼に命じたのだ
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