586部分:第三十四話 夜と霧とその九
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第三十四話 夜と霧とその九
王はだ。このことからも話すのだった。
「そして。パルジファルという作品も」
「あの方の全てですか」
「はい、全てを集めた作品になります」
「それは指輪ではなかったのですか」
「そうです。指輪の後に。あの騎士が」
「あの騎士とは?」
「あの騎士と同じ心を持つ全ての者です」
それこそがワーグナーのヘルデンテノールである。王は彼等が全て同じ存在であると看破している。そしてその王がだ。どうかというのである。
「そこで救う存在になるのです」
「聖杯城の王をですね」
「そうです。これまで救われてきた彼が」
完全に一人になっていた。これまでの人格が。
「救う存在になるのです」
「だからこそ全てを集めた作品だというのですか」
「バイロイトで上演される作品ではタンホイザーからですね」
王はその作品から話した。
「そしてローエングリンもトリスタンもヴァルターもです」
「指輪ならですね」
「はい、ジークムントとジークフリートもです」
「彼等は全て同じ心なのですね」
「彼等は今まで救われてきました」
ワーグナーの作品のテーマであるだ。女性的なものによる救済だ。
そのことは皇后にもわかった。王を理解できるからこそ。
「そして最後にです」
「彼が救う存在になるのですか」
「そうなります。最後に」
「だからこそ最後の作品になるのですか」
「はい、そうです」
まさにそうだというのだ。王はこの時その聖杯の城を見ていた。
それは森の中にあり深く壮麗な音楽の中にある。既にその音楽さえ感じ取ってだ。
王はだ。恍惚とさえなって述べた。
「彼はその作品を遂にです」
「完成させ最後となるのですね」
「そして私は観ます」
その作品をというのだ。
「それを心待ちにしています」
「そしてその作品を観ることもまた」
「私は楽しみにしています」
「貴方自身を御覧になられるのですね」
皇后は自然にこう言った。
「そうなるのですね」
「私自身ですか」
「ワーグナー氏は貴方のことをそう呼んでおられると聞いています」
「パルジファルとですね」
「はい、そのことは私も聞いています」
「そのことは私も知っています」
既にだ。王もそのことは聞いていた。
そうしてだ。王はこう答えるのだった。
「ではです」
「貴方はあの城に入られるのでしょうか」
「あの城はこの世界にはありません」
王は皇后にこう答えた。
「ですがそれでもです」
「貴方はやがては」
「貴女には言えますね」
優しい笑顔になってだ。王は皇后に話した。
「貴女ならば」
「私ならですか」
「貴女に隠すことはできません」
王にはだ。それは決してだった。
「私はあの城に入ります」
「こ
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