581部分:第三十四話 夜と霧とその四
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第三十四話 夜と霧とその四
「ですがあの部屋よりも広いです」
「ベルサイユのことはよく知りませんが」
「私もです」
「申し訳ありませんが私も」
ウィーンにいる侍女達は知らなかった。フランスのその宮殿のことはだ。
それでだ。皇后の周りで首を傾げさせながら言うのだった。
「ですがそれでもですか」
「ここは広いですか」
「そうだというのですか」
「この城の広さと比べてもです」
ベルサイユは巨大な宮殿だ。そのベルサイユのものよりも広いのだ。
それでだ。皇后は言うのだった。
「不釣合いにも思えます」
「左様ですか」
「この場所は」
「ですがあの方はそれを望まれたのです」
他ならぬ王がそうさせた。王は城の設計やデザインにも細かく指示を出していたからだ。
それでこうして見てだ。皇后は言うのだった。
「それならいいでしょう」
「そうですか。バイエルン王が望まれるなら」
「それならですね」
「そうです。では」
それではだと話してだった。皇后は王の待つ場所に向かった。そこは舞踏の間だった。やはり黄金の輝きに満ちワーグナーやロココの香りが濃厚にある部屋の中に黒のフロックコートを着た王がいた。その王と互いに一礼をしてからだ。皇后は王に対して述べた。
「何処か顔色が悪い様ですが」
「そうでしょうか」
「はい、日の光に当たっておられないからでしょうか」
「そうかも知れませんね」
そのことを否定せずに答える王だった。
「私は近頃月ばかりを見ています」
「アルプスにおいてですね」
「そうです。よくそうしています」
「アルプスの月光王」
皇后は言った。王の仇名の一つを。
「だからですか」
「月はいいものです」
王は微笑みだ。皇后にこう述べた。
「優しい光でこの世を照らしています」
「だからこそいいのですね」
「はい、その下にいると癒されます」
太陽よりもだ。そうだというのだ。
「それだけで」
「だからこそなのですね」
「昼は。憂いの世界です」
王は昼についてはだ。皇后に対してもこう言うのだった。
「その世界にいても。私は」
「御心が休まりませんか」
「ですからここにいるのです」
「ですが今は」
昼だった。王にしては珍しくその世界にいた。そのことについてだ。王は皇后の問いに答えた。
「貴女に御会いできますから」
「だからいいのですか」
「はい、そう思いまして」
それでだというのだ。
「それで今はいます」
「そうですか。ですが」
「ですが?」
「無理をされることはないのです」
それはいいというのだ。皇后は微笑み王に話した。
「貴方が貴方の望む様にされて」
「それでいいのですか」
「私は構いません」
微笑みだ。王に述べていく。
「です
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