577部分:第三十三話 星はあらたにその二十二
[8]前話 [2]次話
第三十三話 星はあらたにその二十二
それでだ。怪訝な顔にもなり言うのだった。
「この世でも王で別の世界でもとは」
「そうだ。魂は不滅なのだ」
これもだ。ワーグナーならわかることだった。
「永遠のものは確かに存在するのだ」
「魂がそれですか」
「私はかつて言った」
何を言ったかというとだ。それは。
「マイスタージンガーの最後の場面だが」
「ザックスが言ったことでしたね」
「そのことは覚えているか」
「はい。ドイツの芸術はですね」
「それは不滅なのだ」
ザックスはワーグナーである。彼はザックスに己を投影してマイスタージンガーを創り上げたのだ。そこに既にだ。彼は永遠を見ていたのだ。
そして王についてもなのだった。
「あの方もまたドイツ芸術の体現者であられ」
「不滅の方なのですね」
「全ては不滅だ。ドイツもこれからはだ」
「これからは?」
「様々なことがあるだろう」
ようやく誕生した、王が望みつつもその誕生を恐れたその国もだった。
「戦争もあれば苦境もある」
「そして滅びることは」
「あるかも知れない。国土は」
それはだというのだ。国土はだ。
「しかし。その魂、芸術はだ」
「不滅ですね」
「そうだ。不滅だ」
まさにそうだと話してだった。ワーグナーは今度はパルジファルについて話した。
「遂に最後の作品にかかりたい」
「あのパルジファルに」
「そうだ。その時が来た」
ここでピアノに置かれている楽譜を見たのだった。
「指輪を完成させたのだからな」
「そうですね。では」
「私の作品の総決算になるだろう」
「ただ。そのことで」
「彼か」
「はい、ニーチェ氏はよく思われていないようですが」
今その名を知られてきている哲学者だ。ワーグナーを崇拝していた。
「どうもバイロイトでも」
「そうだな。彼は私から離れようとしている」
「そのことは宜しいのですか?」
「彼はあの方とは違う」
王とはだ。そうだというのだ。
「私を完全に理解することはできていない」
「だからですか」
「確かに残念だがそれも仕方ない」
これがワーグナーのニーチェについての話だった。
「おそらく彼は私から別の音楽家に向かう」
「では今は」
「パルジファルに専念する」
こう言ってだった。実際に作曲にかかるのだった。ワーグナは最後の作品にかかろうとしていた。そして王もだ。彼のその最後の作品を観ることに向かっていた。
第三十三話 完
2011・10・30
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ