574部分:第三十三話 星はあらたにその十九
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第三十三話 星はあらたにその十九
「だからこそ。あの城にも入られるのだな」
「城?ノイシュヴァンシュタインでしょうか」
「いや、あの城ではない」
王にだけ見えることだった。そのことは。
「あの世界にある城なのだ」
「あの世界?」
「私は最後にあの城に入るのだ」
半ば恍惚としてだ。王は話すのだった。
「最後にはだ。だが」
「だが?」
「今はこの世界の城を築いていこう」
「ノイシュヴァンシュタインですね」
「当然ヘーレンキムゼーやそうした城もだ」
今王が築いているその城達だった。その城達を見ながらだ。
王はだ。静かに話すのだった。
「そうしていこう。何はともあれ満足している」
「指輪が終わったことを」
「そうだ。そのことは実に素晴らしい」
満足した言葉を続けていく。
「バイロイトは今その歴史をはじめたのだ」
「あの、ですが陛下は」
「確かにミュンヘンに築いて欲しかった」
その望みは話すのだった。王にとっては切実な願いだった。だがそれは適えられなかった。そのことを残念に思う気持ちはまだ強くあった。
しかしそれでもだった。王はワーグナーの芸術自体について語るのだった。
「この町は聖地になる」
「芸術のですね」
「モーツァルトを産んだザルツブルグ」
王はモーツァルトも愛している。ロココを象徴するその偉大な作曲家も。
「あの町に匹敵するだけの聖地になる」
「ではワーグナー氏もまた」
「ゲルマン民族は何と幸福なのか」
ひいてはだ。民族の話にもなった。
「モーツァルトとワーグナーの二人の聖地をだ。神に与えられ、そして」
「さらにですか」
「他にも実に多くの素晴らしい音楽家を与えられた」
そうだというのだ。二人の偉大な音楽家達だけでなくだ。
「バッハ然り、ベートーベン然りだ」
「彼等もまたですね」
「シューベルトもいい。全てはドイツの宝だ」
「この国のですか」
「この民族に神は数多くの素晴らしい音楽を与えてくれた」
王の言葉は今は現実にはなかった。神の神秘的な世界を見ていた。
そうしてだ。王はその夢幻の音楽を語っていくのだった。
「そしてその中の一つとしてだ」
「このバイロイトがですね」
「聖地になる。偉大な音楽のだ」
「バイロイトはこれまで何もない只の田舎町でしたが」
「しかしそれでもですね」
「そうだ。今その歴史がはじまったのだ」
その現実を話す。しかしだった。
ホルニヒはここでは暗い顔になってだ。王に話した。
「しかしワーグナー氏はどうやら」
「聞いている。財政だな」
「かなりの赤字になったと御心を沈まされているそうです」
「大したことではない」
王にとってはだ。まさにそうだった。
「はじまりで赤字になったといってもだ
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