暁 〜小説投稿サイト〜
遊戯王BV〜摩天楼の四方山話〜
File1−裏デュエルコロシアム
ターン1 古生代不知火流、参る
[14/14]

[9] 最初 [1]後書き [2]次話
あああーっ!」

 絶叫が夜に響き、そしてまた静寂が訪れる。ソリッドビジョンが、ゆっくりと消えていく。たった1人その場に立っていた糸巻が月光のかすかな輝きを頼りに煙草を吹かそうと口元に手を伸ばし、先ほど目当てのものを自分で吐き出したことを思い出した。
 制服のポケットに放り込んである箱の中には、あと何本残っていただろうか。給料日までの日数と心もとない財布の中身をざっと計算し、結局それ以上の喫煙は諦める。その代わりに彼女が手にしたのは、先ほど追跡に使用したデバイスだった。慣れた手つきで番号を入力し、画面に向かい語り掛ける。その表情からはもう、先ほどの諦めやどうにもできない苛立ちの入り混じった色はすっかり影を潜めていた。

「おう鳥居、アタシだ。こっちは終わったから、適当に夜勤の事務員集めてくれ。事後処理?んなもん明日で……え、ダメ?わかったわかった、こんな夜中にそう怒鳴るなっての。とりあえずここで見張ってるから、まずこのガキにつける手錠と車転がしてこれる奴頼むわ。アタシ?いやー、急だったから持ってくるの忘れちまってよ。んじゃなー」

 雷を落とされる前にさっさと通話を切り、流れるような動きで電源ごとオフにする。つかの間の静寂が戻った路地で気を失った強盗の手元に手を伸ばし、その腕のデュエルディスクからデッキを没収する。このカードが持ち主の手元に戻るのは、この男が娑婆に戻ってからだろう。何気なくその1番上のカード……もしも先のターンでエネミーコントローラーを温存し自分の身を守るために使用していた場合、その稼いだ1ターンで何を引いていたのかを確認する。無論、勝負の世界に「もし」はない。ただの暇潰し、ちょっとした実験程度のお遊びだ。

「永続トラップ、メタルフォーゼ・コンビネーションねえ」

 1人呟き、次いで自分のデッキを確認する。デッキトップは魔法カード、おろかな埋葬……無論彼女のデッキには、墓地から効果を発動する蘇生札である馬頭鬼が存在する。

「結局、お前じゃ力不足ってことか。なあ?」

 無論、強盗からの返事はない。地面に伸びたままのその姿を見下ろして乾いた笑みを漏らし、誰にも聞こえないような声量で静かに呟いた。

「誰か、たまにはアタシを倒してみてくれよ……」

 風に流れたその言葉は、ただ夜だけが聞いていた。
[9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ