File1−裏デュエルコロシアム
ターン1 古生代不知火流、参る
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「ん……」
あるオフィスの一角。左右には山と積まれた書類に挟まれた状況で、その書類の主がふと目を覚ました。燃えるような赤髪とお揃いの赤いタンクトップの胸元をこんな薄着では足りんと言わんばかりに自己主張の激しい双丘が内側から押し広げる、やや目つきの悪い長身の美女である。
突っ伏していた姿勢からよろよろと上半身を起こして窓の外に視線をやるも外はいまだ闇深く、照明の中でしれっと時を刻む壁際の時計の針は現在時刻が「美容」や「早寝早起き」という概念に真っ向から喧嘩を売っていることを示していた。どうやら、仮眠のつもりが随分と寝過ごしていたらしい。
それまで腰かけていた椅子の背にひっかけてあった制服を袖も通さずに羽織ったところで、突然後ろのドアが開き1人の若い男が深夜のオフィスに入ってきた。彼女と同じ制服をボタンまで止めてきっちりと着込むその手には、コンビニのものらしきビニール袋が握られている。男は自分のことを見つめる彼女を見て、少し意外そうな顔をした。
「あれ糸巻さん、起きてたんすか」
「たった今な。で、今目が覚めたのを後悔してるとこ。やっぱアタシ、書類みたいな仕事は向いてないんだよなー」
糸巻と呼ばれた女が、背伸びしながら心底嫌そうな声色でそう返す。その仕草は当の本人こそ無自覚ではあるものの、薄手のタンクトップの内側から強調される膨らみとその深い谷間の存在も合わさって人前ならば非常に好色な視線を集めるであろうものだった。だが男はそこに目を奪われる様子もなく、慣れた手つきでビニール袋から取り出したアルミ缶を投げ渡す。
「またその話ですか?そんなこと言ってるから報告書ばっかり溜まってくんですよ。ほら、甘酒買ってきましたからもうちょっと気合い入れてください。マジで本部から怒られますよ」
「おっ、サンキュ」
キャッチしたそれのプルタブを器用に左手の親指だけでこじ開け、中身を一息に飲み干す。後ろも見ずに放り投げられた空缶がゴミ箱の中に落ち、ガコンと思いのほか大きな音を立てた。隣近所からの苦情を思い眉をひそめる男に対し、ようやく寝起きの状態から頭が回り始めたらしい糸巻がさらに言葉を続ける。
「そうは言うけど鳥居、ほら今って月初めだし?月末までに提出すれば問題ないだろ?」
「それ今月分の話でしょ?期限過ぎてんのは先月の報告っすよ」
鳥居と呼ばれた男にとって糸巻の書類作業への抵抗はよほど慣れたものなのか、どちらが年上かわからないような態度で軽くいなして自分用の缶ジュースを開ける。それでもまだ何か抵抗のネタを探して左右に目を走らせる女上司の姿に、本人から見えないように小さくため息をついた。全くこの人は、有事の際には有能なくせにそれ以外はいつだってこの調子なのだから。そしてだからこそ、上層部もここの扱いには手を焼い
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