571部分:第三十三話 星はあらたにその十六
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第三十三話 星はあらたにその十六
「そして最後の作品もだ」
「パルジファルもですね」
「完成したその時にあの方に捧げよう」
「それでは」
こうしてだった。ワーグナーは王がバイロイトに来るのを待つのだった。この世のパルジファルが来ることを。そしてパルジファルは来た。
王はバイロイトに着いてすぐにだ。宿泊するホテルに入った。そのうえで共にいるホルニヒに尋ねた。王が宿泊するに相応しいバイロイトで最も豪奢な部屋の中でだ。
ワインを飲みそうしてだ。彼に尋ねる。
「今はだな」
「はい、他の君主の方々はどなたもです」
「来られていないな」
「ドイツ皇帝も他の方々もです」
「いいことだ。確かに初日は終わった」
こけら落としはだった。既にだ。
「だがそれでもだ」
「明日が陛下にとってですね」
「こけら落としになる。バイロイトのな」
王は頬を上気させて話す。自然にそうなっているのだ。
「そして遂にだ」
「御覧になられますね」
「指輪を最後まで」
明らかに興奮してだ。王は話していく。
ここでワインを一杯飲みだ。そして話した。
「このワインも普段よりも美味だ」
「一週間前と同じものですが」
「だがそれでもだ」
美味だというのだ。
「心がそうさせているのだろうな」
「それだけ明日のことがですね」
「この日をどれだけ待ち望んだことか」
指輪の残る二作を観る、やはりそのことだった。
「そして遂にだ」
「明日に」
「明日観て。一日置いて」
王はさらに話していく。
「神々の黄昏だな」
「どれもかなりの大作でしたね」
「どちらも普通に四時間はかかる」
歌劇の多くは二時間程だ。だがワーグナーは一作一作自体が大作なのだ。
その大作を二つだ。王は観るというのだ。
そしてその指輪についてだ。王は話していく。
「十五時間。四作全てでそれだけかかることになる」
「やはり。それだけの作品は」
「他にない。だがワーグナーは描ききった」
歌劇を絵画に例えて。王は歌劇をこう述べた。
「そしてそうさせたのは他ならぬ私ということになる」
「陛下がワーグナー氏を援助されたからこそですね」
「私は彼にとってのパルジファルなのだな」
王はここですっと微笑んだ。
「そうなるな」
「そうですね。そしてワーグナー氏の芸術にとっても」
「では私はやはりヘルデンテノールなのだ」
ひいてはそうなるというのだ。
「幸いにだ」
「幸いにですか」
「そうなのですね」
「そうだ。そしてだ」
ここでだ。また言う王だった。
「この町にはそのワーグナーがいてくれている」
「はい、それでなのですが」
侍従の一人がここで王に述べてきた。
「そのワーグナー氏からお話がありまして」
「彼から
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