57部分:第四話 遠くから来たその十
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第四話 遠くから来たその十
「スイスにか」
「はい、スイスにです」
その記者はこう男爵に囁いた。今二人はカフェにお互いの身分を隠して会っている。そのうえで話をしているのであった。
「そこにです」
「スイスか。そういえばな」
「ワーグナー氏は森や山が好きだとのことですね」
「そうだったな。それでスイスか」
「どうされますか、それで」
「決まっている。スイスに向かう」
男爵は即座に決断した。コーヒーを飲む手を止めてそのうえで話すのだった。
「今からな」
「では」
「礼を言う。謝礼はだ」
男爵は胸のポケットに左手を入れてだ。何かを出してきた。それは。
サファイアだった。一カラット程度の大きさのそれを記者に差し出してだ。そのうえでこう述べたのであった。
「これだ」
「あの、只の情報提供ですが」
「しかしワーグナーはそこにいるのだな」
「はい、間違いありません」
それは事実なのだというのだった。
「そのことは」
「ではだ。それに見合う」
「宝石とは」
「陛下はワーグナーをどうしても見つけられたいのだ」
「だからですか」
「そうだ。だからこその謝礼だ」
それでだというのだ。そしてだった。
男爵は王に電報を打ち了承の返事を受けてからだ。すぐにスイスに向かった。
そしてすぐにでだった。ワーグナーがスイスの何処にいるかを突き止めたのだった。
「マリエンフェルトだな」
「そこにいます」
「間違いなくです」
「あの場所にいます」
「間違いありません」
ここでも周りの外交官達がワーグナーに話す。
「知人達も集まっていますし」
「そこに支援者もいます」
「多くの書も集めています」
「それを調べてです」
そこにいるのだというのだった。間違いなくだ。
「ワーグナー本人は屋敷の中に閉じ篭っていますが」
「そうしたところからです」
「彼はそこにいます」
「では男爵、今からですね」
「そちらに」
「向かうとしよう」
男爵はここでも即断したのだった。
「それではな」
「はい、そうですね」
「いよいよワーグナーに会えますね」
「遂に」
彼等は遂に仕事が終わることを喜んでいた。そのうえでその屋敷に向かった。しかしであった。
そこにはだ。ワーグナーはいないのだった。
「まさかと思いましたが」
「もう去ったのですか」
「早いですね」
「そうだな。またか」
男爵もだった。ワーグナーがいないことに無念さを感じていた。そしてであった。
そのうえでだ。こう言うのだった。
「諦めることは許されない」
「決してですか、それは」
「絶対に」
「そうだ、絶対にだ」
また言う男爵だった、彼は王から直々に命じられているというその自負感と責任感があった。それで
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