フロックスの贈り物
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にはもう人っ子一人いない。
(逃げたか)
血振りをすれば、深い色の刀身が再び顔を見せる。
……男の口ぶりから、どうやら彼らを負っているのが刀使いであることを把握していて、それに対する対策を講じていたらしいことは窺えた。
だか、そこには重大な抜けが一つ。
楓花が変ずる刀は、耐蝕性が極めて高いのだ。それこそ、金属を腐らせることに特化した鉄脈術にも抗することが出来るほどに。
それは幾度人を斬ろうとも、決して曇りはしない無垢なる刃。
何人にも侵すことが出来ない、永遠の鋼。
それが、どうして毒性から派生させた浸食能力程度に負けることがあろうか。
「……ん?」
そこで、気づいた。
通信設備の横に置かれた、ノートパソコン。
恐らくは作戦書の閲覧や共有に使われていたのであろう。
そのモニターが、点いていた。
『なんか作戦報告書とか入ってるかな?』
「確認してみるか」
つい先程の殺戮で飛び散ったのだろうか。朱い飛沫が所々に付着しているそれの、マウスを握る。簡単なマギの文章なら心得があるのは幸いだった。
開きっぱなしのテキストファイルには、大きな文字でこう銘打たれていた。
《日本皇国の一斉制圧について 概要と経過報告》。
「……」
下へスクロールしていくと、鉄脈術によるバイオテロ計画の概要と、作戦の経過が日付つきで詳細に記されていた。
《――日本皇国において、その製鉄師たちの主要活動拠点は首都たる東京を始め、札幌、名古屋、大阪など概ね九つの都市に集約される――》
《――札幌は位置的に最適に思われるが、到達までのルートは親ヴァンゼクスの影響が強く……北九州は、皇国でも要所として検閲が厳しい――》
《――アメリカ大陸からの玄関として開かれている東京湾が侵入が最も容易……東京は元首・天孫が居住する影響で最も警備が厳戒……千葉が第一攻撃の標的として最適であると結論した――》
読める単語と動詞を拾って行くと、大まかそういうことらしい。
『とりあえず、今回はこれで一件落着……かな?』
「ああ――いや、待て。これは……」
楓花の言葉に頷きかけて、目に飛び込んできたものに、マウスのホイールを転がす指が止まった。
《十二月十日 一次作戦実験についての報告》。
ゴシック体で書かれたその見出しの下には、どこか無機質な文字でこう書かれている。
《――「クリスマスプレゼント」作戦。街中に小さな小動物サイズのビーイングを解き放ち、時限式で毒ガスを一斉噴霧する計画だった。しかし、ビーイング作成段階において毒性に耐えられる個体が一%を切り、現位階では鉄脈術による調整の幅に限度があることが発覚。これによりプランの変更を決定した。なお、唯一生き残った個体も逃走。動向が掴めなくなっており――》
何か。
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